Addicted To You

 そして春。
 卒業式も終えて色々一段落と言う頃、家に来た服部の、第一声に目を丸くした。

「……なんだって?」

 オレの表情に、満足そうにニコニコしながら。

「せやから、4月から同しガッコやな、って」

 もう一度聞こえたその言葉に、思わず頬を抓ってみるが。
 物凄く痛いし、恐らく夢じゃない。

「え。お前、地元の大学受けてたんじゃ……」
「ギリギリまでそのつもりやってんけどなー。工藤があんまりにも寂しゅうて死ぬ、みたいな事ばっかゆうやろ?ホンマに死なれてもかなんから、工藤と同しトコ受けたったんや。どーせなら驚かしたろ思って、バレへんように動くん大変やったんやでー?」

 に、っと笑って。
 わしわしと乱暴に頭を撫でてくる。
 たまに、こうやって子供みたいに扱ってくるのは、きっとオレがコナンだった頃の名残なんだろう。
 普段ならイラつくところだけど、今日ばかりはその姿さえ可愛く思えた。

「嬉しいか?」
「訊くまでもないだろ」

 ぎゅっと抱き締めると。
 一瞬遅れて抱き返してくる腕は優しくて。
 鼻先を擽る髪から春の匂い。
 もう少しそれに浸りたかったんだけど……。

「あ、けどな。一緒には住まへんから。アパート借りてん」

 その一言が現実に引き戻す。
 思わず抱き締める腕を離した。

「何で?!」
「飽きて捨てられてもええように」

 にこり、笑いながら言ってる言葉は冗談だろうけど。
 折角同じ街、同じ大学に通うってのに。
 お互い好き同士、同居しない意味が分かんねぇ。

「遠距離から近距離になってんから、そんで十分やろ?泊まりたかったら泊まったらええのやし。一人暮らしやから、前みたいに邪魔入らんし」
「そりゃそうだけど……何かモヤモヤすんな……」

 要は、ずっと一緒には居たくねえって事で。
 距離置かれてるっつーか、突き放されてる感がする。
 
 複雑な表情をしているであろうオレに、服部は小さく苦笑いをした。

「なあなあになるのが嫌やねん。今みたいに、刺激し合えるままで居りたい。ずっと一緒に居っても、大丈夫やって自信つくまで……待ってくれへんかな」

 話しながら、そっと握ってくる手は温かい。
 一緒に住まないのは、心からオレ達の関係を大切にしてるから、って事か。
 視線を一度そこへ落して、ゆっくりと瞬きを一つ。
 瞼を上げると同時に、服部の瞳を真っ直ぐに見て。

「分かった。待ってる」

 笑みながら答えたら。
 桜のような、柔らかな笑顔が、そこに咲いた。



 遠くに居ても、近くでも。
 一緒に居ても、居なくても。
 オレの一番はあいつで、あいつの一番が、いつもオレであるように。
 これからの道も、二人努力しながら歩いてく。
 辿り着く先が、春だと信じて。

「あー!何遍起こしたら起きんねん!!こんで起きひんかったら置いてくでっ。単位足らんようになっても知らん!」
「起きる起きる……起きるからちゅー」
「ドアホ!!」

 結局、オレが服部の部屋に入り浸るのが多くなって。
 結果、一緒に住んでるのとほぼ変わらなくなったのは。
 それ程遠くない、また後の話。

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