Addicted To You

 乗り込んだタクシーに、限界まで急がせたお蔭か。
 家に着いたのはオレ達の方が早かった。
 そして彼女の帰りを待ち伏せ、服部が色々言い訳をしたものの。
 嘘の下手なアイツの言い訳が通じる筈もなく……。
 ただ、他の人には言わない、との約束だけは取り付け。
 散々からかわれて辟易している服部は、見ていてただただ面白かった。



「工藤がアカンねん。何もゆわんとコッチ来たりするから。最悪やもう」

 静華さんの用意してくれた夕食は美味しく、食卓も楽しいモノだったが。
 所々遊ばれていた服部は、会話中常に冷や冷やしていて、夕食の味すらよく覚えていないとぐったりしていた。

「オレだけのせいか?単純過ぎる自分に非があるとは思わねーのかよ」
「うっさい!ぜーんぶ、工藤のせいやっ。工藤が悪い!工藤のアホ、ボケ、カス!」
「……ガキ」

 呟いたら、顔面にクッションが飛んで来て。
 ホントどうしようもねーガキだな、と呆れて溜息しか出ない。

「はいはい、分かった、分かった。全部オレのせいだよな。オレが悪いんだよな。分かったよ」

 言って立ち上がり、扉に向かおうとした。
 その背中に。

「どこ行くんや」

 ベッドに突っ伏してた服部が起き上がり、クッションを抱えた状態で尋ねる。

「静華さんに客間貸してくれるよう言いに行くんだよ」
「なんで」
「オレと一緒になんか居たくねーだろ」
「誰がそないな事ゆうたんや」

 姿勢はそのままで、クッションの影から見上げる瞳だけが見えているが。
 大体の表情の予想はつく。

「オレは、アホでボケでカスなんだろ」

 小さく息を吐いて。
 腰に片手を当てた状態で、見上げる瞳を見下ろしたままに言う。
 暫し、無言の見詰め合い。

「ホンマにそう思ってるワケないやんか」
「じゃ、ホントはどー思ってるって?」

服部の瞳が一瞬細まって。
クッションを離した両腕が、オレに向かって伸ばされる。

「会えたのは嬉しい」

歩み寄り、ベッドの端に手をついて。
伸ばされた両腕の間に入り込んだ。

「次からちゃんと連絡せえよ」

背中に両手が回って、緩く抱き締められた形になる。
近付く唇に触れようとした。
その瞬間。「平次。工藤くんの布団なんやけど……」

聞こえた声に、驚いて態勢が崩れて。
そのままガタガタとベッドから落ち、床に転がったオレ達。
それを真顔で見下ろす静華さん。

「アンタら、何してるん」
「……プ……プロレス……?」
「ええ年して……アホらし」

呆れ顔に変わった静華さんが、大袈裟な程の溜息を吐く。
渇いた笑いしか出来ないオレと服部。
静華さんが出て行った後、服部はまたぐったりとしていた。

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