Addicted To You
それから、そんなに時間は経ってない筈だ。
走って追い掛けて来たらしい服部が、息を切らせながら腕を掴んで。
少し驚いて振り返った。
「何してんだ、お前」
「……は、それは……オレのセリフじゃ、ボケ……」
肩で息をしながら見上げてくる瞳。
息が上がって苦しいのもあると思が、怒っているかのようなそれ。
「彼女はどーしたんだよ。まさか置いて来たのか?」
「……帰らした……」
次第に整う息。
と同時に、折られていた腰が伸びて、視線の位置が近くなる。
「帰らしたってお前……いいのかよ、それで」
オレを優先してくれたのは素直に嬉しい。
嬉しいけど。
男としてその行動はどうなんだ。
思ったが、服部にはそれはどうでもいいらしい。
「アイツの事はええねん。それよかなんやねん、あの態度。勝手に現れて、勝手に消えるとかぬかして。ワケ分からんわ」
腰に片手を当てて、少しだけ見上げるように見てくる瞳。
やはり不機嫌そうだ。
「ワケ分からんって、邪魔したら悪いって、ホントに思ったからだよ。デートだったんだろ?」
言うと、服部は空いていた手で顔を覆って。
大袈裟とも取れる溜息を吐き、首を緩く横に振った。
「デートちゃうわアホ。ただ、買い物に付き合うてただけや。親戚の子デートに誘わなアカン程、モテへん男ちゃうでオレ」
「……親戚……?」
「せや。さっきの、親戚んトコの子やで」
だから親密そうに見えたのかよ。
つーか、じゃあなんで照れてたんだ?コイツ。
「買い物付き合うと、顔が赤くなんのか?お前」
「へ?」
片眉を上げて、一寸考える素振り。
意味が分かったのか、一瞬で顔が赤くなる。
「……見られとったんかい……」
「ああ」
気まずそうに視線が外される。
さっき見たのと同じ表情。
間近で見るとかなり可愛いその顔。
「あれは、急に……ホンマに好きなんやな、ゆわれたから……」
「え?」
外されていた視線が戻り、瞳が合う。
ここが街中でなけりゃ、確実に押し倒した自信がある。
それくらい色っぽいその目。
馬鹿野郎。
場所をわきまえた表情をしやがれ。
「工藤ん事話とったら……めっちゃ好きやって顔に書いてある、て。せやから焦って……」
ついでに、場所をわきまえた話をしやがれ。
まぁ、話を振ったのはオレだけど。
クソ、なんだって街中なんだよ、ここ!
「……工藤?」
自分との格闘で喋る余裕がなくて。
黙ったままのオレを、怪訝そうな瞳が覗く。
そんなにオレを変質者にしたいのか、服部。
そして落ち着け、オレ。
「……つーか。あの子に、オレがその工藤だって、さっき分かられた訳だよな」
「ん?せやな」
落ち着く為に、頭を使おうと考えを巡らすオレの言葉に、当たり前と言わんばかりに即答する服部。
恐らく、その意味に気付いてない。
「で、帰らしたって、恐らくお前ん家にだよな?」
「ああ」
「そのめっちゃ好きなオレを優先して追い掛けて来た訳だけど……口止めしたのかよ」
「あ」
やっと気付いたらしく、服部の顔が固まる。
と、次の瞬間には恐く動揺した表情になった。
「うわ、どないしよ!携帯、携帯……ってあかーん!オレ、アイツの携番知らん!!」
わたわたと慌てふためいたかと思えば、今度は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
その変り様を見ながら、すっかり冷静さを取り戻し、ぽんと服部の肩を叩いた。
「やっぱアホだな、お前。その猪突猛進型、直した方がよくないか?」
「あーもう、やかましな!」
肩に置かれた手を振り払って、服部が勢いよく立ち上がる。
そして掴まれるオレの右手首。
「タクるで。何が何でも先に家に戻らな!!」
言うと、引っ張るようにして、少し先のタクシー密集地帯を目指して歩き出した。
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