すたあの恋
平次からしたら、テレビの中に居る人間は、何だかんだ言っても、結局は不満らしい不満がなくて、自ら望んだ華やかな世界で、皆が幸せなんだろうと思っていた。
けれど、全ての人がそうではない。
自分が普段、何も考えず過ごしているこの「普通」な時間。
それを、ただ純粋に求めているだなんて。
誰もが、当たり前に感じて良い時間を、望んで望んで、やっとの思いで実現させただなんて。
なんだか、酷く悲しく思えた。
「ずっと、知らんかったら良かったな」
苦笑じみた声がもれる。
自分がずっと知らなければ。
彼はずっと、夢を見続けられたのかも知れなかった。
ここに居ても、ずっと部屋の中だし、籠の中の鳥に変わりはなかったのかも知れないけれど。
それでも。
「まだまだ、見せてやれた世界、きっと仰山あったで」
一般人の自分だから見せられた世界がきっともっとあった。
けれど、一般人だから自分は非力で。
これほどの影響力を持つ彼を、自分が庇い切れないのは明らかだ。
「…帰らな。みんな、お前の事心配して待っとる」
テレビで、ファンの女の子が、帰ってきてと泣いている。
知ってしまった以上。
守り切れない事が分かっている以上。
自分は、彼を元の世界に帰してやらねばならない。
それが自分の最後の役目。
そう思った。
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