初日の出
「日の出だ」
水平線と太陽の光が重なり、海面がキラキラと輝き始める。
太陽は毎日昇るが、元旦の日の出はやはり特別で。
強さを増していく光に、神々しさすら少し感じた。
「……何やってんだ?」
顔前で両手を合わせて瞳を閉じる姿を、工藤が不思議そうに眺める。
うっすらと片目を開き。
「何って、願掛けに決まってるやろ。工藤は願わんでええのか?」
言いながら、また瞼を閉じて日の出に願う。
「願掛け?一年が健康でありますように、って?んなモン一々願わなくても、初日の出見る事自体が願掛けみたいなモンだろ」
願い終え、瞳を開いて工藤の方を向き。
少し呆れた様な視線を向けて。
「お前、本気でゆうてんのか?いっちゃん叶えたい願い掛けたに決まってるやろ」
言うと、工藤は『そうなの?』と少しだけ目を丸くした。
「そう言うのは、初日の出じゃなくて、初詣で神社でするモンだと思ってたけど」
顎に緩く握った拳を当てながら、眉根を寄せて考えるような素振り。
確かに、そちらの考えの方が多いのかも知れない。
「……で?何をお願いしたんだよ?」
ポーズはそのままに、視線だけをこちらに向けて工藤が問う。
答えず、その視線をただ受けていると。
「何だよ。言えねーような事願ったのか?」
無言で居る事に、少しだけ不機嫌そうな顔になった。
普通、願い事なんて人に一々教えたりするものではないと思うのだが。
この男は秘密にすると、勝手に変な妄想をしてしまうので。
さらに不機嫌になられては困る、と諦めて仕方なしに口を開く。
「……ますように、て」
視線を外して、小さな声で言った言葉は、どうやら工藤の耳まで届かなかったらしい。
「あ?何?」
姿勢を崩し、こちらに上半身ごと向けるようにして覗き込んできた。
ちらり見れば、瞳が極近い。
反射的に再度視線を逸らす。
「……工藤が……ずっと好きでおってくれますように、って」
正直、工藤が自分を好きだなんて、今でも夢なのではないかと思う時がある。
だから時々、怖くて仕方がない。
嫌われてしまった。
失ってしまった時の自分が。
本当に夢であったならどうしよう、と。
そんな自分が、馬鹿馬鹿しくて笑える時もあるのだが。
「何だそりゃ」
小さく息を吐いて、工藤が胸に伸ばした腕で頭を引き寄せる。
胸に当たった耳に届く、微かな鼓動音。
それは少し、早いリズムを刻んでいるように聞こえた。
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