初日の出
夜明け前。
工藤が穴場と言った通り、大きな海水浴場が近くにあるせいか、この小さな砂浜には人影も無く。
打ち寄せる波音も、次第に明るくなる空も。
今は、全てが二人だけのモノ。
「ほら、あと少しで太陽が顔を出すぜ」
「ん?あ、ああ」
声に顔を上げ、工藤の指差す方向を見る。
視線の先、水平線の上には、オレンジ色がうっすらと広がり始めていた。
「……どうした?」
少し呆けているような顔に、工藤が眉根を寄せて覗き込んでくる。
「いや。ちと眠い……」
その答えに、『なんだ』と小さく息を吐くと。
回して来た右手で頭を引き寄せ、自分の肩にそのまま乗せて。
「寝ててもいいぜ。オレが思う存分堪能したら起こしてやる」
口の端に笑みを浮かべながら、そんな意地の悪いセリフを言う。
「アホゆえ」
初日の出が見たいと言ったのは自分で、工藤はそれに付き合っているだけ。
見たいと言った自分が見れず、工藤だけが見ていては本末転倒と言うものだ。
「意地でも見る」
「あ、そ」
寒さ対策で二人を包むフリースを、上げるついでに身体を更に寄り添わせ。
その後は互いに無言で、明るさを増してゆく、オレンジの空をただ眺めた。
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