Nightmare

「……う……」

 ゆっくりと開いた瞳に映るのは、自分の部屋の天井。
 窓から差し込む光で、夕焼け色に染まる室内。

「……夢……?」

 汗びっしょりの体に、シャツが張り付いていて気持ち悪い。
 起き上がり、辺りを見渡してみる。
 そこには誰も居ない。
 もちろん、新一も居ない。

「なんや……夢か……。良かった」

 片手で顔を覆い、乾いた笑いを漏らす。

「そらそうや……」

 汗のせいか、悪夢のせいか。
 酷く喉が渇いていた。
 着替えて部屋を出て、ゆっくりと台所へと向かう。

 冷蔵庫からお茶を出し、グラスに注いで。
 それを口に運んだ、その時。

「……平次。目ぇ覚めたんか」

 背後から静華の声が聞こえて振り返る。

「お父ちゃんが呼んでるで」
「おとんが?」

 首を傾げた後、残りのお茶を飲みほして。
 今度は平蔵の居る居間に向かった。

「何か用か?」

 居間では平蔵が、一人お茶を啜っていた。
 平次の声に、顔をこちらに向ける。

「来たか。そこに座り」

 自分の向かいを示すのに従い、そこに腰を下ろし向き合う。
 平蔵の顔が、少し疲れて見えた。

「平次」

 湯呑を置いて、平蔵が一呼吸つく。
 ただじっとして、次の言葉を待つ。

「もう今更、何をゆうても詮無い事や。お前の好きにせぇ」
「……は?」

 出てきた言葉に、意味が分からず平次は困惑した。
 その様子に、平蔵は自嘲じみた笑いを見せ。

「付き合うもホンマに結婚するも、もう好きにしたらええ」

 そう言うと。
 湯呑を持ち、また静かに茶を啜った。

「え。ちょ、待って……え?」

 さあ、と。
 自分の血の気が引いて行くのを感じる。

 夢だと思ったアレは。
 夢ではない……――?

「なぁ、静。跡取りはもっぺん気張ってみよか」
「せやねぇ」

 いつの間にか現れた静華と、平蔵が両手を取り合う様をただ茫然と眺めた。
 そしてそれは、どんどん遠くの出来事の様に見えてくる。

「ウソやろ……」

 呟いて。
 目の前が真っ暗になった。

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