Nightmare
呼ばれて入った居間には、自分の両親と、何故か新一の両親。
そして新一が揃って自分を待っていた。
「……え。なに?」
部屋の入口で、ぽかんとしている平次に。
「平次。ええからここ来て座り」
平蔵が自分の隣を指す。
その目と声がどうにも厳しく。
言われるまま、その場へ歩んで、無言のまま腰を下ろした。
場の空気は果てしなく重く、心臓がキリキリと痛んだ。
「……ほんで、工藤はん。先程の話……。本気でゆうてはりますのんか」
「ええ。でなければ、こうして総出で出向いたりしていません」
にこやかに返す優作とは逆に、ピリピリとした空気を纏う平蔵。
その平蔵の眉が、ピクリと動く。
「私共としても、息子に告げられた時には相当驚き、また正気かと疑いもしましたが……。まぁ、本人の人生ですから。思うように生きさせてあげたいと思うのもまた親心。好きにさせてやろう、と思いまして」
優作の視線の動きに合わせ、平蔵が新一を見、そしてそのまま平次に移って注がれる。
その目が怖い。
「ホンマなんか、平次」
「……なにが?」
途中から聞いている平次には、話の流れがまるで読めなかった。
だが、どうやら新一が自分との事を両親に打ち明けたのでは……と言う事は分かる。
「工藤はんトコのぼんと、そない言う意味で付き合うてる、ゆうのはホンマの事なんかて聞いとるんや」
やはり。
思ったら、先程から痛む心臓は、更に激しく脈打って。
このまま破裂するのではないかと言う程に痛い。
「はっきりせえ!」
平蔵の声に、ビクリと肩が震えて。
「……ホンマや……」
どうにか絞り出した、小さな声で呟くように答えた。
正座した両ひざの上で握った拳は、握り過ぎて爪が食い込む程。
ふるふると震えるそれに、落とした視線が上げられない。
「お前……服部家の跡取りが……何恥晒しとんねん!」
平蔵が立ち上がり、その拳が振り上がる。
平次がぎゅっ、と両目を閉じた。
その二人の間に。
「待って下さい!殴るならボクを!!」
両腕を広げ、平次を庇って新一が割って入ってきて。
平蔵の動きが一瞬止まり、平次がその後ろ姿を見開いた目で見つめる。
「先に好きになったのはボクです。付き合って欲しいと言ったのもボクだ。責任はボクにあります。だから、殴るならボクを」
「工藤……」
普段あまり感じる事は無いが、新一の背中がとても頼もしく見えた。
……ほんの一瞬だけ。
「キスだって最初は嫌がったけど、自分からしてくれるまでにさせたのはボクだし。セックスなんて本気で嫌がられたけど、今じゃ求めて来るまで……後ろだけでイケ身体にさせたのもボクだ」
あまりの事に、平次の頭が追い付かず、ぽかんと大口を開けて間抜けな表情になった。
それは平蔵も同じで。
「ボク無しでは生きていけない……そんな風にさせたのはボクです。そしてボクも、彼無しでは生きていけない……。だからお願いです!彼との結婚、認めて下さい!!そして、殴るならどうぞボクをっ」
いきなり本人の承諾なく、結婚などと言い出し、家族総出で押し掛けて来た事も信じられないが。
それより何より、新一の今の科白が信じられない。
恥ずかしさと怒りが込み上げて、顔が赤くなり、わなわなと拳が震える平次。
「な、ななな……なにぶっちゃけトークかましてくれとるんじゃおどれはーっ!!頭かち割ったろかドアホー!!」
平次が新一の頭を殴った、次の瞬間。
血の気が引いて、その場に倒れる平蔵。
慌てて駆け寄る静華と平次。
「うわー!おとーん!!」
「あんたー!!」
服部家の居間は、大惨事と化していた。
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