どすどすと足音を立てて廊下を歩いていると、ガラの悪そうな面をした長身の男が、壁に寄り掛かるように立っていた。

「よう」

 ニヤリと言う擬音が付きそうな、あくどい笑み。顔立ち自体は整っていると言えるだろうが、いかんせん、醸し出す表情と雰囲気がいかがわしいのだ。
 見たくもない顔に出会い、またしても俺はむしゃくしゃした気分になる。
 男から思い切り顔をそむけて歩く俺に、そいつはさらに声をかけてきた。

「おい、そこの馬鹿面した会長さん。ちょっとツラ貸せよ」

 無視だ、無視。ただでさえ苛立っているのに、これ以上厄介事の種に関わることはない。

「待てっつってんだろ、バ会長」
「誰が馬鹿だ!!」
「はっ! 反応したってことが何よりの証だろ」

 得意げにニヤついているのは、俺と同じくこの九月から風紀委員長になった、クラスメイトの篠原睦実(しのはらむつみ)。
 一年の時から腐れ縁のこの人相の悪い男は、ことがあるたび、何かと俺に突っかかってくるのだ。
 犬猿の仲、水と油。とにかく、俺と篠原はそりが合わないのだ。

「くっ…」

 悔しい。やっぱりシカトしてやればよかった。

「てめぇら生徒会の親衛隊が、最近派手に動いていやがる」
「親衛隊が?」
「旗頭が転校生に入れ込んでんのが気に入らねえみてえだな。小競り合いやらが増えてきてやがる。もめ事の始末をさせられる身にもなれっつうんだよ」
「それが風紀の仕事だろ」
「親衛隊のおもりだけが風紀の仕事ってわけでもねーんでな。自分達の犬くらい、きちんとしつけておけ」

 言いたいだけ言うと、篠原は身を翻す。
 生徒会役員等の問題が片付いたかと思えば、今度は親衛隊か…
 絶えることのない厄介事に、俺は本格的に頭痛を感じ始めてていた。






 寮の私室の前に来ると、控えていた生徒達が、俺に向かって頭を下げる。

「お帰りなさいませ、各務様」
「生徒会のお仕事、お疲れ様です」

 恭しい態度で付き従ってはいるが、彼等は俺の召使では断じてない。
 親衛隊という名の、俺のファンクラブだ。
 容姿の際立った者や家柄の優れた者、スポーツやクラブ活動などで目覚ましい活躍の者等にも、規模の大小は異なるが、親衛隊が結成されている。
 この輝かしい美貌と文武共に優れた成績に惹きつけられたのか、入学して間もない頃から、俺の親衛隊は結成されていた。
 だが、メンバーの中に同学年だけではなく、年配の先輩方までいたのには、俺もさすがに驚いた。
 年下の、それも同性のガキのケツを追っかけて何が楽しいのかと俺なんかは思うが、当人達がそれで幸せならば、それでいいのだろう。実害がなければ、実態がどうだろうと構いはしない。

「各務様、お疲れのようですが」
「…ああ」

 部屋に入り、ぐったりとソファに腰掛けると、心配そうな顔で従う親衛隊員に命じる。

「桐嶋、肩揉め。都築、お前は脚だ」
「かしこまりました、各務様」
「っ、あー…」

 硬くこっていた身体を揉みほぐされる心地よさに、俺の口からジジくさい声が零れる。

「各務様、ご相談があるのですが…」
「ん、ああ…」

 駄目だ、余りの気持ちよさに、頭が朦朧として何も考えられない。

「…お疲れの各務様を煩わせるのも申し訳ありませんので、また後ほど、お時間を頂けますか」
「ああ…悪いな」

 目も開けられないまま、俺は適当に返事を返す。
 大事なことなら、また向こうの方から言ってくるだろう。

「ご無理をなさならいでくださいね」

 身体に温かい覆いをかけられるのを感じたのを最後に、俺の意識は暗転した。


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