「皆、仲良くした方が楽しいだろ?」

 そう言って首を傾げる倉橋に、奴等はそろって相好を崩す。

「なっちゃん、優しーい」
「皆なんていらないよぉ。僕等となっちゃんだけいればいいじゃん」
「そぉそぉ。他の人間なんて、どうでもいいしぃ」
「あなたは本当にいい子ですね、なつき。でも大丈夫ですよ、彼は好きで一人でいるんですから。あなたが気にすることはない」

 自らの責務を放棄し、倉橋を愛でまくる役員等の姿に、俺の堪忍袋の緒がぶちんと切れた

「ざっけんな! てめーらが遊び呆けてる間、誰がテメェ等の仕事を片付けたと思っていやがる!!」
「頼んだ覚えはありませんが」
「ああ?!」

 佐原の切り返しに、俺は眉を吊り上げる。

「あなたがあなたの評価を上げるために、勝手にしたことでしょう。僕達はひとことも頼んじゃいない」
「そりゃそうだが…けどよぉ、誰かがやらねえといけねえことだろうが!」
「僕達の態度に不満があるのならば、リコール(解職請求)と言う手を取っていただいて結構ですよ。まあ、その場合は、生徒会を統率できなかった無能の長として、あなた自身も不名誉を被ることになるのでしょうが」
「ぐっ…!」

 この学園で生徒会長を務めあげたという実績は、色んな場面においてプラスの評価を受けられる。
 大学進学のみならず、特待生としての評価にも、社会に出てからのあれやこれやにも。
 でなければ、誰が好き好んでしち面倒臭い雑用係を引き受けるものか。
 俺の明るい将来設計のためにも、リコールなんぞ、絶対にしてなるか。
 言葉に詰まる俺に、佐原は傲然と言い募る。

「改めて言っておきましょうか。僕達は、望んで生徒会役員になったわけではない」

 この学園の生徒会役員選挙は、特殊な選考方法を採用している。
 立候補方式ではなく、全生徒による推薦式で役員を選出するのだ。
 多くの票を集めた者から順に会長、副会長、会計、書記、庶務に任じられる。
 いわば、人望ランキング…またの名を人気度ランキング。
 容姿や家柄、成績や運動能力、人格などを総合的に判断した格付けが、生徒会選挙なのだ。
 俺は家柄こそよくはないが、学年で10位から落ちたことのない成績と、天性の運動神経、自他共に認める抜きんでた美貌のために、学内では高い人気を誇っており、今回の選挙でも1位をとることとなった。

 能力や資質を判断するうえでは有効的なシステムなのかもしれないが、問題がないわけではない。
佐原の言葉のように、意欲のない人間が役員に選ばれてしまう可能性もあるのだ。

「だ、だが…引き受けた以上は、責任を持って仕事に当たるべきだ。それが、一人の人間としての誠意ってもんだろ」
「上に立つ人間があなたでさえなければ、僕も喜んで任を全うするんですけどね」

 そう言って、佐原は敵意を込めて俺を睨む。
 どうもこの男には、とことん嫌われているらしい。役員選出の際の顔合わせでも、佐原は初めから、俺に対する嫌悪を隠そうとはしていなかった。
 クラスが違う彼と言葉を交わしたのは、その時が初めてだったのだから、俺の行動がまずかったというわけではないのだろう。
 俺が彼を押しのけ、生徒会長に就任したというその事実が許せないのに違いない。

「桃李達…仕事、各務にまかせっきりなのか?」

 睨みあう俺達の間から、倉橋がおずおずと声をかける。

「彼が勝手にやっていることです。僕は頼んではいません」
「でも…そういうの、よくないと思うんだ。嫌々だったとしても…引き受けたなら、仕事、した方がいいって。どうしてもできないなら、きっぱり止めた方がいいと思う」

 へんてこな外見のくせに、なかなかまともなことを言う。
 俺が転校生の評価を少し改めていると、役員等がまた笑み崩れた顔で倉橋に構いだした。

「仕方がありませんね。なつきがそこまで言うのなら、仕事をしましょう。彼のためではなく、なつきのために」
「なっちゃんは責任感が強くて偉いねえ」
「しょーがないっかぁ。なっちゃんに嫌われたくないしねぇ」
「仕事に行くからぁ、あとでちゃーんとご褒美、ちょうだいねぇ」
「なつ…わかった」
「みんな…わかってくれたんだな。よかった、ありがとう!」

 やばい。今、本気で殺意が湧いた。
 俺がどんだけ言っても出てこようとしなかったのに、倉橋の言葉一つで簡単に変節しやがりやがって。

「明日の放課後、絶対に生徒会室に来いよ! 逃げんじゃねーぞ!!」

 このままこの場にいれば、本当に奴等に手を挙げてしまうかもしれない。まるで悪役の捨て台詞のような言葉を吐き、俺ははらわたの煮えくりかえる思いで談話室をあとにした。


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