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「でもさー、ちょっとだけ安心したよねー…料理部のメンバーならさー、皆大人しめなカワイコちゃんばっかりじゃんかー? なっちゃんに酷いこともできなさそうだしー」
「ミッキーは甘いよぉ! 人間、見た目と中身が一致するとは限らないんだからぁ!」
「そうだよぉ! 普段目立たない奴ほどぉ、いざって時にとんでもないことやらかすんだからねぇ!」
「落ち着こうよ、降矢達…まだ、何かあるって決まったわけじゃないんだし…」
「ヘタレな織田っちは黙りなよぉ」
「見た目と中身が一致しない代表例のくせにぃ」
「うう…」

 生徒会役員達が姦しく騒ぎながら廊下を速足で進んでいく中で、佐原だけが俯きがちにじっと黙りこくっている。その顔色が妙に青ざめているのが気になって、俺は声をかけた。

「どうした? 妙にしおらしいな」
「…なつきが連れて行かれたのは、僕のせいかもしれません」
「は? 何でお前のせいになるんだよ」
「…柳瀬は、僕の親衛隊員です。僕が、なつきにばかり気を取られていることを、やっかんだのかも…」

 沈んだ声で佐原はそう告白する。
 倉橋と連れ立っていたという料理部員、柳瀬…そいつは、佐原の親衛隊員だったのか…。原因が自分にあるかもしれないと、佐原は暗い顔をしていたのだ。

「まだ、そいつがどんな理由で倉橋を連れだしたのか分かっちゃいねえだろ。責任感じて落ち込むには、ちっとばかし早ぇぜ、佐原」
「そーだよとーりん、俺の親衛隊にも料理部の奴いるしー。てゆーか部長やってるしー。とーりんのせいって決まったわけじゃないってー」
「俺のとこにも、料理部に入ってる子はいるよ…佐原、そんなに自分を責めることない」
「き…君達に慰められるいわれはありません! 僕はただ、自分の親衛隊員の動向も把握できなかった自分の迂闊さに、少し呆れているだけのことです!!」
「そぉそぉ、その調子ぃ! とーりくんはツンデレが一番似合うんだからさぁ。らしくなくぅ、かわいこぶらなくたっていいんだよぉ」
「とーりくん、こっからが正念場なんだからぁ、しゃんとしててよねぇ」
「言われるまでもない! グズグズしている暇はないんです、急ぎますよ!」

 俺や他のメンバーに励まされ、佐原は白い頬を紅潮させると、伏せていた顔を上げ、きりりとした表情になってより足を速めた。つい先ほどまで落ち込んでいたのに、もう皆のリーダー気取りである。

「へいへい…仰せの通りに」

 変わり身の早い奴だと少しだけ呆れながらも、それでこそ佐原だと微笑ましくもあり、俺はこっそり唇の端を歪めた。


 そして皆で騒々しく渡り廊下を進み終え、特別棟へと到着したのだが、調理実習室へと続く曲がり角を曲がったその時、俺は廊下の先に見覚えのある姿を認め、共に歩む役員達を押しとどめた。

「待て!」
「なになにー? 誰かいたのー?」
「俺の、親衛隊の奴だ…確か、料理部の」

 曲がり角に姿を隠しながら、俺はジッとその姿を観察した。俺の親衛隊員を含めた男子生徒二人が、のんびりと廊下を歩きながら会話を交わしている。

「んもー! 今日は部活休みのはずでしょー?! 何でいきなり呼び出しがかかるのさ!」
「緊急徴集って何なんだろうね〜。全部員要出席ってメールに書いてあったけどさ」
「今日は各務様の生ブロマイド商談会の予定だったのにー! これで下らない月例会議だったりしたら、怒っちゃうよ、僕は!」

 そんな情報が聞こえてきて、俺達は顔を見合わせた。

「緊急招集だってー…」
「全部員が集まってるのぉ…?」
「じゃあ…本当に、単なる料理部の…会合で?」

 当惑する俺達をよそに、先を行く二人の料理部員が調理実習室へと辿り着き、からりと扉を開いた。

「遅いぞ、お前達! 緊急徴集だと言っただろう」
「はーい、ごめんなさーい、部長!」

 二人の姿が実習室へと入ったのを確認すると、俺達は足音を立てないよう気をつけながら教室の前まで小走りに近付き、気付かれないようこっそりと、僅かな隙間だけ扉を開き、室内の様子を窺った。

「今日は一体どうしたんですか?」
「じきに分かる…よし、これでようやく全部員が揃ったな」

 実習室に立ち並ぶ調理台の周りに、部員達が4、5人ほどのグループを作り、席に腰掛けている。総員で30名ほどだろうか。その他にも、中央の教壇に3人の生徒が立っている。

「あ、あの真ん中に立ってるのが俺んトコの隊員〜。料理部の部長だってー」
「…その隣にいる生徒が、柳瀬です」
「もう一人の子も知ってるよぉ。僕とおんなじクラスの子でぇ、副部長だって言ってたぁ!」

 佐原達が小声で、指差してメンバーを教えてくれる。
 ジッと息を潜めて料理部員達の行動を見つめていると、三木本が部長だと示した男が一歩前に脚を進め、声高らかに宣言した。

「これより、倉橋なつきの非公開審問を始める!」

「非公開、審問…?」

 物騒な単語に、俺は眉をひそめる。

「倉橋、前へ」

 料理部部長に命じられ、調理台の片隅に座っていたらしい倉橋が立ちあがり、教壇の前に設けられた座席に腰掛けた。その様子はさながら、裁判に出廷する被告人のようだ。部長達3人は裁判官、他の部員等は傍聴人と言ったところだろうか。尋常ではないその様子に、俺以外の役員達も露骨に顔をしかめている。

「何、あれぇ…まるで、つるしあげみたいじゃあん…」
「あんなの…なっちゃんが、可哀想だよぉ!」
「すぐに止めさせなければ…!」
「待てよ…!」

 今にも教室に飛び込んでいきそうな佐原の腕を掴んで引き止めれば、殺気にも似た感情の篭った目で睨みつけられる。

「どうして止めるんですか!」
「部内綱紀に関することなら、部外者の俺達が口を挟んでいい問題じゃないだろ」
「しかし、なつきが…」
「とにかく今は、様子を見ようぜ。あいつらの目的が不実なものであるなら、その時は堂々と押し入って止めりゃあいい。だが、まだそうと決まったわけじゃない、今は待て、佐原」
「くっ…」

 悔しそうに唇を噛むが、とりあえず今は何とか抑えてくれるようだ。俺達は引き続き、こっそりと部員達の様子を探る。

「倉橋なつき! 先日入部届けを提出したお前は、我が桜坂クッキングクラブの厳格な入部試験に合格し、晴れて入部を果たしたな。しかし、入部後わずか五日部に顔を出したのみで、その後は部活動を欠席し続けているのは、一体どう言うわけだ?」
「部を無断欠席し続けているにも関らず、お前は生徒会補佐という任に就き、生徒会活動の方には精力的に加わっているそうじゃないか。生徒会活動には力を入れられても、クッキングクラブの活動はどうでもいいというわけか?」
「倉橋、お前近日の行動次第、部員皆納得に足る理由があるのか、説明を求める」
「それは…」

 部長と副部長、そして柳瀬の三人が口々に厳しい口調で倉橋に問いかける。詰問された倉橋は俯き、ぎゅっと拳を握りしめた。


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