20

「可愛らしいですよ、各務様」

 くす…と密やかな笑いが零され、ぬめりを帯びた桐嶋の指先が、俺の穴の上へと触れてくる。
 すり、すり…と縁の辺りをしばしなぞる様に撫でた後、ぐ…と柔らかな力でそこを押される。繊細で器用な指は、中途半端な圧力で閉口部を何度も押すが、それ以上深く埋め込もうとはしてこない。まるで焦らすようなその行為に、俺はたまらず声を上げる。

「っ、おい! 変な遠慮なんてすんなよ、ンなヤワじゃねえっつったろ!」
「ふふ…遠慮だなんて、こうなった今となっては到底無理な相談というものですよ、各務様。ただ…こればかりは、ゆっくりと時間をかけて慣らした方が、受け入れる立場の方も、挿入する側の者も、双方苦痛が少なくて済みますから。ですからね、各務様…けして、あなたを焦らそうとしているわけではないんです」
「そ、そーかよ…」

 すべてお見通しとばかりにくすりと笑われ、俺は色っぽい笑顔から目を逸らした。

「大丈夫ですよ、各務様…すぐにあなたのお望みのものを差し上げますから…」

 耳たぶを柔くはまれた後、そんな囁きが吹き込まれると同時に、孔の上に置かれたままだった指先が、弾力のある抵抗箇所を簡単に突破して身体の中へと潜り込んできた。

「ん!」

 自分の身体の中に、他人の身体の一部が入り込んでいる。自分の意思ではコントロールできない異物に、身体の中を探られようとしている。その事実は、何とも形容しがたい違和感と恐怖感をもたらす。
 未だかつて経験したことのない未知の感覚に、俺はぎゅっと目を閉じ身体を強張らせた。

「痛くはありませんか…?」

 優しい声と共に髪を梳かれ、固く閉じていた目を開ければ、そこには桐嶋の姿がある。
 そうだ、俺に触れているのは他でもない桐嶋だ。桐嶋が、俺に無体なことをするはずがない。
 それを認識すれば、硬直して身体から自然と力が抜け、俺は大きく息を吐いた。

「あ、ああ…違和感はあるが…痛くは、ない…」

 ぬるぬるとぬめる液体のおかげか、桐嶋の技巧のおかげか、違和感はあるものの、苦痛は全くと言っていいほどない。

「それはよかった。初めての者は緊張のために身を強張らせ、苦痛を感じてしまうことも少なくないのですが…各務様は、そんなことはなかったようですね」
「お前が手慣れてるおかげ…」
「嬉しいことを仰って下さる…では、このまま続きをさせていただきますね」

 そして、桐嶋の指先が、更に奥深くへと押し入ってくる。
 指が動かされるたびに入り口部分がジンジンと痺れたように熱くなり、俺は桐嶋の身体を間に挟めたままの脚を、もぞもぞと居心地悪く悶えさせた。

 この感覚は何なのだろう。気持ちがいい、とまでは言えないのだが、下半身がそわそわして妙に落ち着かない。心地悪くはけしてない。むしろ、もっと…と求めたくなるような…

 そんな風に、桐嶋がもたらす奇妙な感覚の波にぼんやりとたゆたっていた俺だが、次の瞬間、突如として与えられた、内臓をわしづかみにされたような強烈な感覚に、目を見開き身をのけぞらせた。

「ぁ、ふっ……くう!!」

 目の前が一瞬真っ白になる。呼吸すらままならない。これは一体、何だ。

「ここですね…各務様の、イイところは」
「な、何だ…今の」

 それまでの生温いような刺激とは全く異なる、全身に電気が流れたかのような激しい衝撃。
 身体の内部で蠢いていた桐嶋の指が、腸の一部分を押し上げた…目には見えないので正確なことは分からない。感触からしてそんなところだろうと思うのだが、その途端、腰を蕩かすような凄まじい快感に襲われたのだ。
 わけが分からず狼狽する俺に、桐嶋が微笑む。

「前立腺を刺激してみたのですが…」
「こ、これが…噂の、前立腺…?!」

 すごく気持ちのいいらしい…これが?!

「そう…ここが、前立腺です」

 にっこり微笑み桐嶋が、またしても指先でここをぐいっと押し上げる。再び流れた強烈な刺激に、俺は身をよじらせ悲鳴を上げた。

「んあああっ!」
「各務様は、どうやらこちらの素質もおありのよう…というよりも、随分と優秀なご様子だ」
「あっ…ちょっ、待て…んんん、ダメ…っ!」

 話し掛けながらも、一定のリズムで桐嶋の指が俺の弱いところを押し上げてゆく。容赦なく与えられる快感に翻弄されるしかない俺は、たまらず待てをかけてしまう。
 確かにすごく気持ちいいのだが、ちょっとこれは気持ちが良さすぎる。

「…御不快でしたか?各務様。申し訳ございません…お嫌でしたら、今日はここで終わりにいたしますが…」

 桐嶋がしゅんとした顔で謝罪し、俺の身体の中を好き勝手にしていた指が抜かれてゆく。

「いや、その…嫌っつーか…嫌じゃねーんだけどさ。き、気持ちよ過ぎて怖い、っつーか…」
「ああ、なるほど…そうですね、慣れるまでは、本当に強烈すぎる刺激ですものね、前立腺は。ご安心ください、各務様。回を重ねるほどに馴染んでくるものですから。怯えずに、そのままを受け入れてくだされば、もっと蕩けるような快感を得られますよ」
「今の段階でも十分、蕩けてんだけど…俺」
「いえ、本番はこれからでしょう?各務様。それに…こんな中途半端なままで放り出されて、満足できますか?」
「あ…」

 桐嶋が身体を浮かせ、眼差しで俺の下半身を示してみせる。そこには、緩く勃ち上がりかけた俺自身があった。
 確かに、こんな状態のまま登り詰めることもなく終わってしまうのは…どうにも物足りない。強すぎる快感にビビってしまったが、前立腺への刺激にも、まだ未練はあるし…

 思わず物欲しげな目で桐嶋を見つめれば、くすりと微笑まれる。

「大丈夫…またすぐに気持ち良くして差し上げます」


| TOP |
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -