19

「では…お部屋に行きましょうか、各務様」
「ん…」

 二人きりになった途端、これからこの男と『そういうこと』をするのだ…ということを嫌に意識させられて、鼓動が早くなってゆく。気恥ずかしいのに待ち遠しい。欲しい、だが少し恐ろしいような。まるで初めての時のような緊張感だ。
 そんな俺の内心を知ってか知らずか、桐嶋は大人びた眼差しを向け、安心させるように優しく微笑む。差し出された手を取って、俺は桐嶋について自室へと入って行った。

 ベッドに導かれ腰掛けたその途端、桐嶋が俺の顔を両手で挟み、楚々とした顔に似合わない情熱的な口付けを仕掛けてくる。吐息を全て奪わんがばかりの激しさに押され、俺は寝台の上に倒れ込んだ。その上に、桐嶋が馬乗りになってのしかかってくる。もつれ合いながら、俺達は互いを貪りあった。

「きり、しま…」
「各務様…」

 酸欠になったように頭がぼうっとし始めた頃、ようやく唇が放される。俺の唾液で濡れた唇を赤い舌で舐め上げ、桐嶋は艶やかな声で囁いた。

「明日、体育の授業はありませんでしたよね…?」
「何だよ、唐突に…確か、体育はなかったけど」
「それは好都合。いかがでしょう、各務様。そろそろ、前立腺の方も開発してみませんか?」

「ぜんりつせん…かいはつ…」

 清楚な顔から出たとは思えない卑猥なフレーズに、俺の頭は一瞬フリーズする。

 前立腺開発とはつまるところ、アレだ…俺の、後ろをそう言う用途に使用できるよう仕込んでゆくということであろう。前回、桐嶋はそんな提案をしていたが…

「また次の機会に、というお約束でしたよね?」
「…そりゃ、確かにそう言ったがよ…お茶でも飲まない?みたいなノリで誘うなよ…そこまで踏み込む度胸なんぞ、普通の男子は持ち合わせてねーぞ」
「ふふ、そう堅苦しく考えずに。以前も申しあげましたが…前立腺への刺激は…すごく、気持ちいいですよ」

 凄艶…そう形容するのが最も相応しい顔で、桐嶋が誘惑してくる。その誘いが、あまりに魅力的で。俺はごくりと喉を鳴らした。

「気持ちいいこと、嫌いじゃないでしょう…?」
「ん…」

 蜂蜜のように蕩ける声が耳元に吹き込まれ、背筋を甘い痺れが駆け巡る。桐嶋の言葉の意味を脳が理解する前に、俺は小さく肯き返していた。

「では、各務様。いざ、未踏の境地へ参りましょう」
「お手柔らかにな…」

 満面の笑みを浮かべる桐嶋を見て、早まったと思わないでもなかったが、まあこいつなら手慣れていそうだし、何より俺に無体なことをするはずもない。心の片隅には僅かに恐怖心があるものの、俺は全てを桐嶋に託し、身を委ねた。


「各務様、いい匂いがしますね」
「風呂上がりだしな…」
「各務様の肌の匂いと、整髪料の香りが混じり合って…とても、美味しそう…」

 睦言を交わすうちにも、桐嶋の唇と細い指先が肌を愛撫しながら手際よく俺の服を剥ぎ取ってゆく。もともとそう多くを纏っていなかったこともあり、俺はすぐさま生まれたままの姿になった。
 しかし、桐嶋の方は部屋に来た時の格好のまま、一枚たりとも脱いではいない。自分だけ裸を晒すのが気恥ずかしく、俺は桐嶋の袖を掴んで揺さぶった。

「お前は脱がないのかよ」
「脱いでしまえば、最後までしたくなってしまいますから」
「…最後までしねえの?」

 てっきりそのつもりだと思いこみ、半ば覚悟を決めていたのに。

「各務様の、お身体のご負担を考えますとね。段階を追って慣らしていった方がよろしいかと思いますので」
「ふーん…別に、ちょっとやそっとで壊れるほどヤワじゃねーし。我慢しなくていいぜ」
「各務様には、純粋に気持ち良くなっていただきたいんです。用意が整わないままことに及び、不快な思いをなされば、行為そのものに対する印象も悪くなってしまうでしょう? それよりも、じっくりと快感を覚えていただき、セックスというものを愉しんで、好きになってもらった方が、私としても好都合ですので」
「あっそ。なら好きにしろ」
「はい」

 何が嬉しいのか、にこにこと頬を染めて微笑む桐嶋。気の長いことである。思春期の男子と言えばまさにやりたい盛りであるだろうに、相手に合わせて我慢するなど、尊敬に値する精神力だ。

「まあ、ちょうどいいか…ゴムも何も持ち合わせてなかったし」

 彼女とは別れてしまったし、男子校でそんなことをするつもりもなかったしで、コンドームなど手元にあろうはずもない。

「ああ、それならご心配なく。スキンもジェルも、私が持ち合わせておりますので」
「…何で持ってんだよ…」
「いつ何どき各務様に求められても、すぐに応じられるように常に所持しております。ですから、お望みの際はいつでもお声をおかけくださいね」
「至れり尽くせりだな…」
「はい。全ては誠心誠意各務様に尽くすためです」
「いたいけな年下の男子を誑かすためだろ?」
「ふふ、そうともいえますね」

 桐嶋がボトムのポケットから銀色のパウチを取り出し、封を切り掌に中身を落とす。粘性の高そうな液体が、どろりと零れた。

「各務様…仰向けになって、脚を開いてください」
「う、ん…」

 静かな声に指図され、俺は羞恥を覚えつつも、それに従う。

「よくできましたね…では次は、膝を、それぞれの手で抱えて…?」
「っ…! これ、恥ずかしい…」

 膝に手をやった俺は、その格好をした時の自分の姿を想像し、身悶えて首を振った。
 女の子がするならいい。大変興奮する構図だろう。だが俺のような逞しい男がこんなポーズをしてしまえば、ただひたすら滑稽なだけではないか!

「各務様、このお部屋には私の他には誰もいないのですから、恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。この恰好が、各務様にとって一番負担の少ない姿勢ですから、ね? お願いです、各務様…私は各務様に痛い思いをして欲しくないんです…」
「わ、わか、った…」

 眉をひそめた桐嶋に、懇願するように言われ、俺は目をぎゅっと瞑りながら両膝を胸まで抱え上げた。
 そして、俺の全てが桐嶋の前に曝け出される。キスに反応して起ちあがってしまった場所も、狭間の奥の小さな孔も、全てが。

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