17

 一年坊主たちとの思いがけぬ交流を終えた後、食堂で晩飯を取り、生徒会専用浴場で汗を流して、あとはゆっくり私室で一日の疲れを癒すばかり…と寮の部屋に戻ってきた俺は、扉を開け、目前に広がる光景に呆然と立ち尽くした。


「でね、これが寝起きのショット。この時期、パジャマは下だけなんだよ」
「各務様の、上半身…引き締まった肉体美がたまりませんね…!」
「うわぁ、寝ぐせが可愛いです!」
「あくびをする各務様、萌えですね!!」
「こっちは着替えシーンだよー。制服のボタンを一つずつ外してく、そのチラリズムが中々そそると思わない?」
「すっごくエロぃですぅ! 下手な全裸よりきゅんきゅんしちゃいます…!」
「槇野さん、ホントいい腕してるなあ。俺、写真部だけど、槇野さんのセンスには脱帽しちゃいますよ。俺ももっと感性磨かなきゃだなあ」
「ふふふ、まあそれほどでもあるよね。あとね、これはすごいよ、俺一押しのベストショット!」
「これは…各務様の、水着写真…!!」
「この水着ショット、もしかして…もしかしなくても、水泳部の活動シーンじゃないですか!!」
「うっそ何で?! 部活中は応援も撮影も厳禁で、俺達写真部ですら撮影が許可されてないのに…! 槇野さん後生です、俺にも撮影方法をご享受くださいっ!!」
「ふふん、蛇の道は蛇だよ。このルートの秘密ばっかりは、誰にも教えられないなあ」

「…何やってんだ、お前等…」

 リビングのテーブルの上には俺を被写体とした写真がそこここに散らばり、それを俺の親衛隊の面々がぐるりと取り囲み、それを見下ろす形でマキがソファでふんぞり返っているという状況だ。

「あ、お帰り〜」
「各務様、お帰りなさいませ」
「各務様ぁ、お疲れ様ですぅ!」

 親衛隊員等がわらわらと寄ってくるが、俺はそれをスルーし、ソファの上でにこにこと手を振るマキを睨みつけた。

「おいマキ。その写真は一体何だ」
「いやさあ…各務の秘蔵ショットあるから見てみる?って聞いたら、皆が言い値で買うって言うからさあ。そうまで男気を見せられたらね、俺としても、とっておきのコレクションを披露しないわけにはいかないじゃない?」
「こんの、羊の皮を被った守銭奴め……いつの間にそんな写真撮ってやがったんだ」
「だってー、各務ってば普段っからちょー無防備なんだもん。あーんなあられもない姿を見せられちゃね、俺のハートもきゅんとして、思わず記録に残しておきたいと思っても仕方がないじゃない。そのときめきを皆さんと共有したいと思ってもしょうがないじゃん、ね?」
「嘘つけ、絶対ぇネタにしてあとで遊ぼうと思ってただろ! マキ…お前、肖像権って言葉、知ってるか? 知ってるよな? 学年主席のお前が知らないわけないよなあ?」
「もちろん、存じ上げておりますとも!……売り上げの一割献上でどう?」
「八割に決まってんだろ馬鹿め………つーか、高校生男子のなけなしの小遣いを巻上げるような非道な真似はすんなよ。本当にそんなもんが欲しいっつう物好きがいるなら、せいぜい現像代を徴収する程度で勘弁してやれ」
「キャー!各務様、おっとこまえぇ!! マキさん、僕オールコンプリートで!」
「僕も全種類3枚ずつでお願いします! 観賞用と保管用と実践用にしちゃいまーす♪」

 実践用って何だ、実践用って。
 突っ込みたいところだが、ものすごく恐ろしい答えが返ってきそうで、聞けないチキン野郎な俺である。

「はいはい皆さん落ちついてー。今申込フォームを用意しますからねー、そちらをご記入の上お買い求めくださいねー。希望者には領収書もお作りしますよー」
「仕方なくっつーわりには嫌に用意周到じゃねえかマキてめえこの野郎」
「ははは、商いはクリーンにが俺のモットーだからね!」
「ったく…」

 サムズアップして爽やかに笑うマキの姿に、自然と溜息が零れる。本当、こいつには何をどうしたところで敵う気がしない。
 疲れを感じてどっかりとソファに座りこむと、タブレット端末を取りに立ちあがったマキと入れ替わりに、親衛隊長たる桐嶋が隣にそっと腰を下ろし、俺に向けてその上品な顔立ちをほころばせた。

「ふふふ…あの槇野君の前では、さすがの各務様も形無しですね。お二人ともとても仲がよろしくて、少し妬けてしまいます」
「仲が良いっつうか、一方的にマキにおちょくられてるだけだろ。俺はM嗜好なんぞ持ち合わせてねえから、弄ばれても不愉快なだけだぜ」
「そんな風につれないことを仰っても、説得力がありませんよ。あんなに気の置けないやり取りを見せておいて」
「まあ、あれでも一応ダチだし。ルームメイトだし、クラスメイトだし。それなりによろしくやっていかねーとなんねーから。仕方なくだ、仕方なく」

 本当はすごく頼りにしているし一緒にいて楽しい奴だと思うけれど。そんなこと素直に言えるわけないだろう、恥ずかしい。プイッと顔を逸らして早口にまくしたてる。

「…ふふ。頬が赤いですよ、各務様。素直じゃないところも、大変お可愛らしいのですが……ねえ、各務様。私とも、槇野君のように『仲良く』してくださいませんか?」
「き、桐嶋…?」
「この前の続きは、いつになったら始められるのでしょう?」
「つ、続きって…」

 胸の上に乗り上げるように桐嶋の半身が寄せられ、たおやかな美女のような面が間近になる。向けられた蠱惑的なその微笑に、俺の心臓が早鐘を打ち始めた。

 続きとは…もしかしなくとも『アレ』だろう…前回、マキに邪魔され中途半端に終わってしまった、桐嶋による初心者向けレッスン。

 正直なところ、桐嶋とのアレは…とてもよかった。男性同士だとかそういう常識などどうでもよくなってしまうほどには。…体力性欲共に溢れるやりたい盛りの青少年としては…是非とももう一度、教授願いたいところであったりするのだ。


「桐、嶋…」

 近付いてくる唇に魅入られ、俺は身体を固くしたまま動けなくなってしまう。

 もう一度、あの快楽を味わうことができるならば、俺は…



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