快食・快便・快眠。
 この三つこそ、人間が健康に生きてゆく上で欠かせない、最も重要な要素だと俺は思う。

 しかしながら、である。
 二学期が始まり、俺こと各務政宗(かがみまさむね)が、この学園の生徒会長に就任してから一週間。
 腹立たしいことに、俺様の健康生活は妨げられまくっていた。

「うー…腹がー…腹が減った…」

 放課後の生徒会室に、俺の声がうつろに響く。
 本来であれば役員で賑わっているはずの室内は閑散として、時折発せられる俺の幽霊のような呻き声の他は、全くの無音と言っていいほど静まり返っていた。
 というのも、生徒会室にいるのは生徒会長である俺、ただ一人だけなのである。
 副会長も、会計も書記も、庶務さえもいない。役員等は皆、新体制に移行してからの一週間、初めに顔合わせした時以降、全く生徒会に顔出しをしていないのだ。

 俺は何度も仕事をするよう役員等に注意したのだが、のらりくらりと逃げられて、結局誰一人として姿を見せようとしなかった。
 だが、役員等が来ないからと言って、生徒会の運営を滞らせるわけにはいかない。
 奴等がサボタージュし続けている間、溜まりに溜まった仕事を処理すべく、俺は一人孤独に生徒会室に詰めているというわけなのだ。

「肉ー…肉、肉を食わせろー…」

 パソコンのキーを叩きながらも、俺の意識は食べ物のことへと飛んでゆく。
 肉汁滴るステーキに、シャキシャキ野菜のサラダ、濃厚なスープにガーリックライス。
 食堂のステーキランチセットは、学食とは思えないほど豪華で美味だ。
 価格も若干お高めなため、庶民の俺には高根の花だったが、生徒会長になった今なら、役員特典の学食無料特権で、いくらでも食べられるはずだったのに。
 俺は素敵な食べ放題ライフを満喫するどころか、サボり魔達の穴埋めのため、昼休みも返上で仕事をしているという体たらくなのだ。まったくもって、切ない話である。
 仕事をする片手間に、おにぎりやらサンドイッチやらをつまんではいたが、あんなもので俺の胃が満足するはずもない。散発的に襲いかかってくる飢餓感に、俺は苦しめられていた。

「くそ、目が…」

 ディスプレイを見ていた目がしぱしぱきて、目頭を指できつくもみこむ。
 昨夜、三時間しか眠れなかった分、目に負担がきているようだ。
 休み時間と放課後だけでは溜まった仕事を片付け切れず、部屋に持ち帰って作業しているのだが、特待生の身である俺は、生徒会の仕事があるからと成績を落とすことも出来ず、仕方なく、睡眠時間を削って予習復習をしているのだ。

 食物繊維も睡眠も圧倒的に足りない不規則な生活を続けているためか、もう三日も便秘が続いている。体調も機嫌も、これ以上ないほど最悪だ。
 眠気を振り切り、再びディスプレイに向かおうとした時、電話が鳴った。

「はい、生徒会室」
『お、各務か。大川だ。体育祭に関する要綱、まとまったか? 今日の職員会議で報告しねえといけねーから、なるべく早めに仕上げて欲しいんだが、間に合いそうか?』
「ぐ…」

 生徒会の顧問教師からの、書類の督促電話だ。
 やばい、まだ半分ちょっとしか終わってないのに。

「…職員会議は、何時からでしょう」
『18時からだから、あと二時間だな。全部は無理そうなら、出来た範囲内で構わねーから」
「間に合わせます」
『おー、じゃあ頼むな』

 痛む頭を騙し騙し、電卓を叩いて諸経費を計算し、予算書をやっつけで作成する。
 あとは、タイムスケジュールの作成に、各委員会とのすり合わせの調整だけ。時間には、何とか間に合わせられると思うが…

 これくらい、俺一人でもやって出来ないことはない仕事量ではある。
 だがしかし、生徒会役員が一体となって行うべきことなのだ、本来ならば。

「で き た…!!」

 時計を見れば、17時50分。
 俺は職員室までダッシュすべく、椅子を蹴った。


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