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「馬鹿馬鹿しい…どうして我々がこんな茶番に付き合わされないといけないんですか。親衛隊同士、やり合おうが潰し合おうが、勝手にしてください」
「どーせならぁ、共倒れしてくれればよかったのにぃ。なっちゃんをいじめた奴も倒れてぇ、会長の力も殺げてぇ、一石二鳥だったのにねぇ」
「あーあぁ、朝から下らない騒ぎに巻き込まれるなんてぇ、ちょー気分悪ぅい」

 ことが収まったのを見て、ぶちぶち文句を零しだす佐原と降矢兄弟。
 お前らはただ騒ぎを大きくしに来ただけだろうが。何を被害者面することがあるのか。
 不満を露わにする佐原達に、倉橋がしゅんと肩を落とす。

「みんな…ごめん。俺が後先考えないで突っ走ったから…」
「なっちゃんは悪くないよぉ」
「なっちゃんは正義のために頑張っただけじゃあん」
「そうです。全ては部下の管理もできない、各務と織田の無能が元凶なんですから」
「でも、気をつけようねー。世の中、正しいことだけがまかり通るってわけでもないからねー。なっちゃんがどれだけ真っ直ぐなことを言ったって、相手がそれを素直に受け止めてくれないなんてこと、ままあるんだろうしー。傷付いて辛い思いをするのは嫌でしょー?」
「…でも、俺は自分を曲げたくない。言葉が届かないなら、気持ちが伝わるまで叫び続ける…! 俺には、それだけしかできないから」

 顔を上げ、きりっと潔い目でそう宣言する倉橋に、三木本が破顔する。

「あは……そうだね、それでこそ、俺が惚れ込んだ倉橋なつきだ。なっちゃんのそういうとこ、好きだよ」

 満面の笑顔のまま、ひょいと倉橋の頬にキスをした。
 突然のスキンシップに、倉橋の顔が真っ赤に染まる。

「なっ! 何すんだよ秋成!」
「ちょっとぉ!抜け駆けしないでよぉミッキー!!」
「なっちゃんはみんなのなっちゃんなんだからぁ!」
「大丈夫ですかなつき! 今すぐ顔を洗わなければ…!」
「いくら先輩だからって、本人の了承もなしにこーゆーことするのは、ちょっといただけねえと思うんスけど」
「…殺すぞ、テメエ」
「あはっ、みんなこっわーい」
「だ、大丈夫だから、みんなそんな怒んなよ。ほっぺにキスなんて、挨拶みたいなものだし」

 てんでんに四の五の言いだしたKY軍団に、うろたえていた当の倉橋が三木本をフォローする始末だ。
 他人事ながら、本当に面倒臭い奴等だ。お前も苦労してるんだな、倉橋…ライバルながら同情するぜ。


 ぎゃんぎゃんわめく佐原達を何とかなだめ終えた倉橋は、篠原に向き直って頭を下げる。

「すいませんでした。前に呼び出された時、言動には気をつけるよう注意されたのに…俺、暴走しちゃって。風紀には迷惑をかけました」
「ま、言っても聞きやしねえだろうとは予測できてたがな。俺もお前のそういう一本気なとこは嫌いじゃねえよ。近視眼的で猪突猛進なところは頂けねえが」
「篠原先輩…」

 殊勝に謝る倉橋に、篠原はシニカルな笑みを浮かべ、その頭をポンと叩く。
 あの、人を人とも思わぬ、傍若無人で傲岸不遜な篠原が! 人に、優しくしている…!!
 篠原にまで気に入られているとは…倉橋、マジで冗談抜きに侮れない奴…

「んじゃ、あとは風紀委員に任せて、俺達は教室に行こうぜ、ナツ」
「そうですね、こんな三文芝居にかかずらわって、いつまでも時間を無駄にすることはありませんし…」

 なにやらいい雰囲気で見つめ合う二人に危機感を抱いたのか、あくまでもさりげなく、スポーツ少年が倉橋の肩を抱き、篠原から引きはがすように自分の方へと引き寄せる。と同時に残りの奴等が、倉橋の姿を隠すように篠原との間に入り込み、集団で取り囲んでてんでに声をかけ、倉橋の興味を篠原から逸らそうと画策する。敵ながら、なかなかに息の合った、ナイスチームプレイではないか。やっていることは馬鹿馬鹿しいの一言に尽きるが。

 さんざん騒ぐだけ騒いで嵐のように退散しかけたKY集団を、篠原が鋭い声で呼びとめた。

「おい、待てや」
「まだ何か? 各務と織田の親衛隊員のいがみ合いの後処理など、我々には関係ないことでしょう」
「いい機会だから言っておくぜ、生徒会のアホウども。惚れた野郎のケツを追い回すのは自由だが、その結果、自分達の行動が周囲にどんな影響を及ぼすのか、紛いなりにも人の上に立つ人間なら、自覚を持った上で動けや。お前らの軽率な行動のせいで、どれだけ校内の風紀が乱れたと思ってやがる」
「僕等が悪いと言うんですか? 一人の人を純粋に想うこと、それが罪だと…?! こんな風に騒ぎ立てられることなんて、僕等の誰一人として望んでいないのに!」
「ちからのある奴が動けば、否応なしに周りを巻きこんでいくんだよ、本人が望もうが望むまいがな。とばっちりを喰らって泣くのは、てめえらの大事な倉橋だろう。男なら、惚れた奴を守るために、てめえの筋を曲げるくらいしてみせやがれ」

 おお…たまにはそれらしいことを言うではないか。ただのチンピラまがいじゃなかったんだな…篠原。風紀の長に選ばれたのは、伊達ではなかったということか。
 篠原の言葉に佐原達は言い返すこともできず、悔しそうに唇を噛んでいる。

「今回衝突しあったのは各務と織田の親衛隊だが、それを引き起こすようなこんな浮ついた空気が校内に漂っているのは、お前達全員の責任だ。自分は悪くないなんて開き直りはするなよ。前生徒会役員も今のお前達に劣らないだけの人気はあったが、こんな無様なことはしでかさなかったぜ。伝統と由緒ある桜坂生徒会の名を、お前たちの代で穢すような不名誉を残したくなけりゃ、てめえの言動をもういっぺんよく考えなおすこったな。
 おい、そこに突っ立ってるバ会長も分かってんのか? 本来なら、俺の代わりにお前が説教するのが筋なんだからな」
「う、うっせー! 今そうしようと思ってたんだよ!」

 まったくの嘘である。言わずとも、皆に知れているだろうが。
 この一件では会長としての威厳を見せるどころか、完全に篠原に喰われてしまった…情けないぜ、俺。


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