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「そうですか? でも心配です。織田様は体格もご立派でいらっしゃるから…各務様など、押さえこまれたら簡単に食べられてしまいます」
「俺が織田にって、一体どんな状況だよ……つーか、そもそもあいつ、こういうことの経験すらねーんじゃねーの?」
「いえ…私の知る限りでも、そうですね…中等部の頃から、親衛隊の隊員達とは、それなりに励んでいらっしゃいましたけれども」
「え」

 あの、織田が。
 キスはおろか、手を繋ぐことすらできなそうなお子様に見えた織田が。
 何だあれは、擬態か? 俺は騙されてたのか?

「ショックでしたか…?」
「そりゃ、なあ…あの織田がねえ。うわ、何か想像したくねえわ…」

 親衛隊達…というからには、相手は一人や二人では済まないのだろう。
 織田が中学生の頃から男をとっかえひっかえしていたなんて、知りたくなかった…

「…今は織田様より、私とのことにだけ集中なさってください」

 何となく落ち込んでしまっていたら、桐嶋は気に入らなかったのか、拗ねたような声でそう言って、一旦解放していた俺自身を、再び喉の深くまで咥えこんだ。

「んん…っ!」

 急激に与えられた快感に、首をのけぞらせた瞬間。



「各務ー、帰ってきてんのか? 今日のアレだが…」

 そんな空気を読まない声と同時に、部屋の入口の扉が開かれた。
 風呂から戻って来たらしいマキは、頭から湯気を上げたまま、ソファの上で絡み合う俺達を目にして硬直した。

「って、えええええ?! 俺様会長×健気美人親衛隊長キター?!」

 頬を興奮に赤く染め、そんなわけのわからないことを叫ぶ。

「正統派?! 王道ですね! やっぱり基本は外せないって奴ですか!!」

 マキは目をキラキラ輝かせ、俺と桐嶋の姿を穴があきそうなほど凝視してくる。

「マキ、お前な…とりあえず、空気読んでくれ」
「いやあ悪い悪い、いーいところで邪魔しちゃったみたいだね。どうぞ、俺のことは気にせずに。部屋に篭って大人しくしてますから、存分に続きをやっちゃってください」

 げんなりしながら俺がそう言えば、マキはにこにこと満面の笑みを浮かべて個室へと入って行った。

「各務様…お友達の方も、ああ仰っていることですし…」
「ん、ああ…いや、待て」

 あんな状況でも盛り下がらなかったらしい桐嶋が続きを促してくるが、俺はむくりと身体を起こすと、つかつかとマキの個室の方へと歩きだした。
 そのまま部屋のドアを開けると、「うわっ」という声と共にマキが転がるように飛び出て来て、床へと倒れ込んだ。

「…何してる、マキ」
「いや、ちょっとドアノブの調子が悪くて…」

 絶対零度の眼差しと声で床にへたばるマキを見下ろしてやれば、引き攣った笑いを浮かべてしょうもない言い訳を口にしてくる。

「お前な。野郎同士の行為を覗き見して、何が楽しいんだ」
「すっごく楽しい!! むしろ萌え!! 下手なAVよりよっぽどクるね!」

 握り拳を作って力説するマキの首根っこを掴んで個室に放り投げ、パタンとドアを閉じる。

「つうわけで、この部屋じゃ続きは無理だな」
「残念です。別に私は、見られながらでも構いませんけどね」

 くすくすと笑いながら、桐嶋はソファに腰を落ち着ける。

「生憎、俺には露出狂の才能がなくてな。見られてちゃ、勃つもんも勃たねえよ」
「では、先ほどのお話の続きに戻りましょうか。親衛隊員等で、あなた様の護衛をさせていただきたいというお願いですが…」
「ちっ、まだ覚えていやがったのかよ」

 どさくさでお流れになったかと思っていたのに、桐嶋は意外としつこい。

「当然です。今日はそのためにお伺いしたのですから」
「よく言うぜ。フェラに夢中になってたくせに」
「各務様が魅力的すぎるのが悪いんです。あんな風に誘われて、拒める者など誰もいません」
「とにかく! 身辺警護なんていらねえんだよ。必要もねえのに俺の傍をうろつきやがったら、会長命令で、親衛隊の活動を停止させてやるからな!」
「各務様! それはあんまりです!!」
「俺は自分のプライバシーを大切にしたいんだよ。これだけは譲れねえ」
「…分かりました。今日は一旦、退くことにいたします。一晩、じっくりお考えになってくだされば、どうするのが一番いいか、各務様にもご理解いただけると思いますので。では、失礼いたします。お休みなさいませ」

 一礼して桐嶋が部屋を出てゆくのを、俺はソファに座ったまま、むっつりと見送った。
 ただでさえ、生徒会長になってから周囲が何かとうるさいのだ。
 騒がれるのは嫌いじゃないし、むしろ好きだが、俺の忍耐にも限度と言うものはある。
 何事にも煩わされず、一人で静かに過ごす時間が欲しいと思うのは、当然のことだろう。

「護衛なんて、絶対ぇにいらねー!」

 桐嶋には聞こえないと理解しつつも、俺は決意を込めて、そう叫んだのだった。






 翌朝、居間でマキとかちあった俺は、その顔を見てぎょっとした。

「マキ、お前その顔どうしたんだよ」

 マキの目の下に、病的なほどのクマが出来ている。
 昨日、眠れなかったのだろうか。あの後、特に何の騒動もなかったと思うのだが…

「いやぁ、昨日のアレで萌えが滾っちまってなー。仲間と熱く語り合ってたら、いつの間にか夜が明けてたよ、ハハハハハ。俺様受けもいいけど、基本に忠実に下半身馬鹿俺様会長も、改めていいもんだなあと実感してたところだわ」
「…何でだろう、日本語のはずなのに、お前の言ってることが分からないのは」

 そんな風にワケの分からない会話を交わしながら、いつも通り学校への道のりを歩いてゆく。
 玄関に到着した俺は、下駄箱を開けて身体を強張らせた。

『織田様に近付くな。警告はこれが最後だ』

 そう書かれた脅迫状が、泥水に濡れた俺の上履きに乗せられていた。


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