腕の間の美しい男を見おろしたまま逡巡していると、踏ん切りの悪い俺に焦れたのか、桐嶋は俺の首にかけた腕を、ぐいと自分の方へと引き寄せてきた。
「お慕いしております、各務様」
そう囁く唇が、かつてないほどに近付く。
「きり…っふ」
思わず制止しようとした俺の声は、桐嶋の唇へと吸い込まれた。
「ん、ふ…んん…」
桐嶋、キスうっま!!
その楚々とした外見からはとても想像できない優れた技量に、俺は文字通り舌を巻いた。正しくは、巻かれたと言うべきか。
口内に忍び込んできた舌は、情熱的な、それでいて余裕のある巧みな動きで俺を翻弄してくる。
一方的に与えられ、愛され、なされるがままに流される。
モトカノともディープなキスは経験していたが、いつも自分の方から仕掛けるばかりだったので、受け身としての体験は新鮮で、味わったことのない快楽を俺へともたらした。
そう言えば、男とのキスはこれが初めてだ。
この学園に来るまでは、同性との性行為なんて想像すらできなかったが、一旦やってしまえば、意外と嫌悪感もなく、すんなりと受け入れられるものだ。
所詮、唇と舌の形状に、男女の差などさしてないということだろう。技量さえあれば、同性との行為であろうが、気持ちイイものは気持ちイイのだ。
絶大な快感をもたらしてくれる桐嶋との口付けに、俺は溺れた。
「ん!」
不意に、男の子の大事なところに与えられた刺激に、キスに夢中になっていた俺はぎょっとして目を開いた。
いつの間にか伸ばされた桐嶋の片手が、俺の股間へと伸びている。
「ん、んん!!」
キスの合間に絶妙な強さとリズムで刺激され、俺の息子はじわじわ元気になってゆく。
「桐嶋…!」
「各務様…タチ役とネコ役、どちらの方がお好みですか?」
熱烈で執拗なキスから俺の唇を解放し、熱に潤んだ瞳で桐嶋は尋ねてくる。
「どちらが…って。普通、俺がタチ役すんじゃねーのか?」
ルックスや体格からして、当然そうなるものだとばかり思っていたのだが。
桐嶋にアレコレされる俺とか、想像つかない。むしろしたくない。キモすぎる。
「人によっては、受け入れる行為の方が快感を強く感じられると言いますから。私などもそちらの側ですね。抱かれるという行為に初めは抵抗があっても、一度試して病みつきに…という例は、そう珍しいものではないようですよ」
「そ、そういうもんなのか?」
「私はどちらの経験もありますから、各務様がお望みのままにご奉仕いたします。どちらにいたしましょう?」
そんなに気持ちがいいことなら、試してみたい気もしないでもないのだが、病みつきとかになってしまったら、男としてやばくない?的な怖さがある。
ヘタレな俺は、未知への好奇心と恐怖心を天秤にかけた結果、保身を選んだ。
「…男相手は初心者なんだよ、俺は。いきなりンなハードなプレイは出来ねーよ」
「分かりました。では、ネコの経験は、また次の機会にと言うことで」
にっこり微笑むと、桐嶋は俺の肩にかけた手をぐいと動かし俺を起こさせると、ソファから降りて膝の間に跪いた。
ええと。次ってどういう意味だろう?桐嶋よ。
意味深な言葉に思わず考え込む俺のズボンを下ろし、下着の窓を寛げさせ、現れた俺自身を躊躇うことなく口に含む。
「っ、桐嶋!」
熱く、ぬめった粘膜に包み込まれ、緩く起ちあがりかけていた俺の息子は、一気に硬さとでかさを取り戻す。
先端部分を舌先でつつきながら、竿を桐嶋の繊細な指がしごいてゆく。
指使いも舌使いも俺が心地よいと思うポイントを上手いこと掴んでいて、まさに絶妙の一言に尽きる。
「ん、ああ…」
感嘆の溜息を洩らす俺に、桐嶋は口淫を続けながら、目を細めて淫靡に笑う。
俺自身を嬲っているのとは逆の手をズボンの隙間から忍び込ませ、そのまま尻の割れ目に沿ってゆっくりと下に下ろしていく。
「ちょっと待った!」
さすがにそれは許容できずに、俺は桐嶋の手を掴みあげる。
「お前、どこ触って…」
「前立腺、ご存知ですか?」
「…風俗とかでやってくれるヤツだろ」
「ええ。各務様、男性のオーガズムにはウェットとドライ、二種類あるんです。通常の射精はウェットといい、達することで終わってしまいますが、ドライオーガズムは射精を伴わないため、一度きりではなく何度も、長時間に渡って快感を得られるんです。前立腺はドライオーガズムを得る際によく使う器官でして、ペニスと同時に刺激すると、得も言われぬ心地よい気持ちになるんですよ。不思議ですよね。普通の行為ではけして触ることのない場所に、男性の快感の種が潜んでいるなんて」
「…詳しいな」
まるで医学知識を教授するように淡々と下ネタを披露する桐嶋に、俺は呆れ半分の目を向ける。
「あなたより、一年分長く生きていますからね。その分知識も深まるというものです」
「ろくでもねえ年の功だな。もっとまともな脳味噌の使い方はなかったのかよ」
「ふふ。あなたを悦ばせられたんですから、私の脳も苦労した甲斐があったというものです」
「…仕方ねえだろ、初めてなんだから」
俺の息子を撫でながら嬉しそうに微笑む桐嶋に、俺はそっぽを向いて言う。
「初めて…それでは、織田様とはこういったことはなさってないのですね?」
「ねえよ。あるはずねえだろ」
ちょっと近付いただけで赤くなる、あのウブで純情な朴念仁が、こんなエロ行為に及べるはずがない。