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「各務様が生徒会長に就任された時から考えておりました。あなた様がこの学園で輝かしい存在になってゆくのに比例して、影もまた、大きく濃くなりましょう。各務様の栄光を妬む輩が、害意を抱き、あなた様に仇為そうと目論むやもしれません。各務様に害が及ぶことのないよう、我々でお守りさせて欲しいのです」

 真剣な顔をする桐嶋に、俺は苦笑を返す。

「大袈裟な奴だな。一応俺は、この学校の生徒会長様なんだぜ。俺相手に逆らおうなんて奴が、そうザラにいるわけねえだろ」
「いいえ。実際に、織田様の親衛隊が騒いでいるようです」
「騒いでって…そいつら、何て言っていやがるんだ?」
「それは…」
「構わないから報告しろ」

 顔をしかめて言いよどむが、構わずに促すと、桐嶋は観念したように息を吐いた。

「…各務様が、織田様を誘惑して堕落させようとしている…そう言っております」

 堕落って。俺は悪女か何かか?
 馬鹿馬鹿しさに呆れるが、でもまあ、事実からそうかけ離れているわけではないかもしれない。

「まあ、間違っちゃいねえな…俺があいつにちょっかいかけてんのは事実だし」
「…その件については、我々隊員らの間でも声が上がっております。各務様、織田様とはどういったご関係でいらっしゃるのでしょうか」
「大切な友人。生徒会の仲間。今はそれだけだ」
「今は…ということは、今後、そのご関係に変化があるということでしょうか…」
「さあな。どうなるかは分からねえよ」

 あるわけないとは思うけど。俺も織田も逞しい男同士だし。いかがわしい関係なんて想像もつかない。

「…そう、ですか」

 はぐらかせば、桐嶋は一瞬暗い顔を見せたが、すぐに表情を切り替え、きりりと俺を見つめてくる。

「そういうわけですので、各務様。織田様の親衛隊が、あなた様に危害を加えようとするかもしれません。どうか、警護許可を頂きたく…」
「必要ねえよ、んなもん」
「各務様! もっとご自分のお立場をご理解なさってください! あなた様はご自分で考えていらっしゃるよりもずっと、多くの人間の心を揺さぶっているのです!いい意味でも、悪い意味でも…。各務様にもしものことがあったらと思うと、私は…私達は、居ても立っても居られないのです!!」

 悲愴な声で叫ぶ桐嶋の肩に手を置き、俺は溜息を一つ吐く。

「あのな、桐嶋…俺とおまえのガタイを見比べてみろよ。どう見たって俺の方が強そうだろ? 親衛隊の他の奴らだって似たり寄ったりだし、そんな身体で俺を護衛しようなんざ、正直なとこお笑い草だぞ。それに、俺はこれでも運動神経に自信があるんだ、ちょっとやそっとのことじゃやられやしねえよ」
「各務様の身体能力は確かに素晴らしいですけれども、複数で向かって来られるということもあります。用心に越したことはありません」

 ああ言えばこう言ってくる桐嶋。いい加減、うんざりしてくる。

「勘弁してくれよ…四六時中見張られてっかと思うと、息が詰まる。これ以上、ストレスの種はいらねえんだよ」
「各務様、私達はあなた様のことを思って…」
「俺のことより自分の心配をしろよ。お前、その手の奴等に好かれそうな顔してんだから」
「私のことなどはどうでもいいんです。しがない一生徒に過ぎないのですから…」

 そう自分を卑下するが、桐嶋はなかなか綺麗な顔立ちをしている。体格だってすらりと細身で、男性らしさを感じさせない清潔感もあり、この学園のタチ役達から人気を博しそうな容姿の持ち主なのだ。
 不届きな野郎どもに狙われたとしたら、俺などよりもよほど危ないだろうに。ミイラ取りがミイラになるという事態になってしまいかねない。

「お前な…これでも、そんなこと言えるのか?」

 そんなことにはとんと無自覚な桐嶋の肩をぐいと押し、ソファに押し倒す。きょとんと見つめてくる桐嶋の上に、俺はゆっくりのしかかった。

「各務、様…」
「俺を狙うなら、体格に自信のあるゴツめの野郎がよこされてくるだろうよ。俺ごときにこんなことされてるようじゃ、そいつらには到底叶わないぜ。それで俺を守るなんて言えるのかよ」

 頭の横に手をついて見下ろしてやれば、桐嶋は白い頬を赤く染め、うっとりと俺を見上げてくる。
 腕を伸ばして俺の首に回し、とろんとした声で囁く。

「各務様…あなたになら、どうされたっていい…」

「え」

 これはいわゆる、据え膳と言う奴なのか?
 桐嶋は先ほどまでの話もすっかりと忘れた様子で、扇情的な仕草で俺の首筋をくすぐってくる。

「各務様…」
「き、りしま…」

 桜坂のカサノバを志す身としては、ここで桐嶋を食ってしまうべきなのだろうか。
 でも、恋人同士ってわけでもないのにそうするのは桐嶋に悪いし…いや、この学園の親衛隊はそういう関係もOK的な存在だから、気にはしないのか?
 俺は童貞ではないが、男経験はない。桜坂に入って三カ月で彼女に振られてから、ずっとヤっていなかった分、正直、溜まっているという実感はある…
 だが俺、野郎相手に勃つんだろうか。桐嶋は確かに綺麗な顔立ちだが、胸もなけりゃ、股間には余計なイチモツがくっついている。いざって時に使い物にならず、会長様は勃起不全なんて噂が流れでもしたら、死んでも死に切れねえ。

 様々な想いが、俺の脳裏を一瞬にして駆け巡る。

 どうする、俺?!
 ゆっくりと目を閉じる桐嶋を前に、俺はごくりと唾を飲み込んだ。


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