「ときにお前ら、自分のところの親衛隊の管理はどうなってる?」

 放課後の生徒会室。
 それぞれの業務を終え、帰り支度を始めた役員達に、俺は厳かに問いかけた。

「なぁにー、突然。親衛隊の規模対決でもしたくなったのー、会長?」
「んな下らねえことで勝っても嬉しかねーよ……倉橋の私物に、嫌がらせが繰り返されているそうでな。どうやらそれが、役員の親衛隊の仕業じゃねえかって話になってる」

 篠原から聞いた話を伝えれば、奴等が一様に驚きを露わにする。

「なっちゃんに嫌がらせって…何、それ。初耳なんだけど…」
「なつきは…そんなこと、一言も言っていませんでした!」
「そうだよ…なっちゃんは、いつもと変わんない、元気な顔してたよぉ…」
「明るくてぇ…いつも通りに、可愛くてぇ…」

「風紀の篠原からの報告だ。倉橋本人は隠していたつもりかもしれねえが、確かな話だ」

 予め話を聞いていた織田を除き、動揺を隠せない役員等に情報源を明かす。倉橋への嫌がらせが事実だと分かり、奴等は一斉に厳しい顔つきへと変わる。

「風紀委員長がって…じゃあ、本当なの? でも、親衛隊の仕業って…どこの…」
「…僕等のとこじゃあないと思うけどなぁ?」

 真っ先に否定したのは、双子の降矢兄弟だ。

「どうしてそう言える?」
「別に、親衛隊だからって庇うつもりはないよぉ? ただ、本当にそう思えないだけぇ」
「あいつらにはぁ、僕等に絶対服従を、厳しくしつけてあるもんねぇ」
「僕等に逆らったらどうなるかぁ……分かっててぇ、危険を冒す馬鹿はいないしぃ…いらないから」

 そう言って浮かんだ双子の黒い笑顔に、背筋がゾクリと寒くなる。微笑む顔立ち自体は愛らしいのに。

「俺だってー、ちゃんと身体でみんなを満足させてるから、わざわざ嫌がらせすることないと思うけどー。でも、一応聞いてみるねー」
「…お前、倉橋にまとわりついときながら、他の奴を相手にしてんのかよ」

 どこまでも軽くチャラい三木本に、軽蔑の眼差しを向ける俺。こいつの下半身と貞操観念はどうなっているんだ。

「仕方ないじゃーん、心と身体は別物だもーん」
「最低だな、オイ…。佐原、お前んとこは?」
「…基本的に、不干渉です。親衛隊内にも幾つか派閥があり、良心的な生徒達とは付き合いがありますが、それ以外の人達とは…」
「あー…」

 佐原の親衛隊は、奴をネコとして狙っているような輩が半数を占めている。そんな奴等と付き合うなんて、ライオンの檻に羊が飛び込んでいくようなもんだ。

「言いにくいなら、俺から注意してやろうか?」
「っ、結構です!! 自分の親衛隊くらい、自分でかたをつけます! あなたの手助けなど必要ありません!」

 猫が毛を逆立てるような剣幕で、佐原は俺の申し出を拒絶する。まあ、プライドの高い佐原が、仇敵ともいえる俺の手を借りるはずがないか。
 だが、こうまで言ってのけたからには、佐原も自分の矜持にかけて親衛隊を何とかしてのけるだろう。多分放っておいても大丈夫なはずだ。
 気がかりなのは…

「さっきからずっと黙ってるけどぉ、織田っちのとこはどうなのさぁ」
「そうだよぉ。織田っちのとこの親衛隊って、桃李くんのとこに負けないくらい過激じゃあん」
「俺、は…」

 降矢兄弟に責め立てられ、織田がでかい身体を竦める。

「どぉせ、親衛隊にいいように利用されてるだけなんでしょお? 下僕に操られるなんてぇ、主人失格じゃあん」
「将来人を率いる立場につくならぁ、自分のとこの奴隷くらい、きちんと管理してみせなよぉ。そんな卑屈な態度でぇ、織田の人間としてやっていけんのぉ?」
「それができないならぁ、なっちゃんに近付かないで。迷惑なんだよ」

 鋭い言葉に、織田が身体を震わせる。
 降矢兄弟の言葉は、織田が一番、自分に対して感じていることだろうに。
 一言も言い返さず、黙って叱責を受け入れる姿に見かねた俺は、たまらず奴等の間に割って入った。

「言い過ぎだ、降矢兄弟。織田にも非はあるが、だからってお前達の苛立ちをぶつけていい道理はねえだろう。お前らの言葉は忠告を通り越して、ただの暴言だ」

 咎める目を向ければ、双子はむくれた顔でそっぽを向く。

「…なっちゃんが心配だからぁ、帰る」
「織田、君が何もできないならそれでいいよ。なっちゃんは、僕等が守るから」
「…僕も、降矢達の言葉に同意します。織田、君は親衛隊をきっちりと躾け治すか…さもなくば、なつきから離れてください。僕はなつきが傷付く姿なんて、見たくない」
「織田っちの気持ちも分かんないでもないけどー、いつまでも会長が庇い続けてあげられるわけじゃないんだよー。そろそろ一人立ちを覚えなきゃねー」

 役員等は言いたいだけ言うと、そろって生徒会室を出て行った。


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