その後、部活に行くという織田と別れ、生徒会室を出た俺は、寮への帰り道をひたすら無言で歩いていた。
 歩みは次第に速くなり、最後は少し駆け脚になる。

「各務様、お帰りなさいませ…あの…」
「桐嶋、今日はいいから帰ってくれ! また明日な!!」
「あ…」

 部屋の前で待っていた桐嶋にそう謝罪し、靴を脱ぐことすらもどかしく、俺は部屋へと飛び込んだ。

「マキぃいいいいいっ!!」

 部屋に入るなり俺は叫んだ。一刻も早く、この偉業を報告したくてたまらない!
 ソファに座って本を読んでいたらしいマキが、興奮を隠せない俺に笑う。

「お帰りさん。首尾はどうだったよ? まあ、その様子じゃ、尋ねるまでもないけどな」
「そりゃもう、ばっちり過ぎるくれーばっちりだぜ! 上手くいきすぎて怖いほどだ!」
「よしゃ、詳細希望」

 目を輝かせて身を乗り出すマキに、俺は覚えている限り詳細にことを語った。

「つーわけだ! 織田は見事に俺に落ちた!!」
「な、俺の言ったとおりだったろ。お前が本気になってかかれば、落ちねえ男はいねえってな!」
「我ながら自分の才能が恐ろしいぜ。この調子なら、他の面子もとんとん拍子に落として行けそうだ」
「馬鹿野郎―――!!」
「うぶっ」

 調子に乗ってふんぞり返っていたところに勢いよくびんたをくらい、俺は倒れた。

「な、何だよ…」
「調子に乗ってんじゃねえ。織田はな、いわば初心者向けの攻略キャラだ! 落とせて当たり前の奴なんだよ! 向こうから人との交流を求めてきてるんだ、お前じゃなくても誰でもよかったってことを忘れんな」

 打たれた頬を押えてへたり込む俺を、マキが仁王立ちで見下ろす。

「いいか各務、これで仕事が終わったと思ったら大間違いだ。むしろ、こっからのケアが肝心なんだよ。釣った魚にはちゃーんと餌をやるんだ。慢心してるとあっさり逃げられちまうんだからな。織田はまだ、倉橋を忘れたわけじゃねえんだぞ」
「確かに、そうだな…」

 織田は倉橋にかまってもらえない寂しさを、俺で穴埋めしようとしているにすぎないのだ。
 優先順位でいえば、倉橋1番俺2番だ。

「ここから地道に好感度を上げていって、お前の存在を織田の中で大きくしていくんだ。時間が許す限りそばにいてやって、存在感を刻みつけろ。お前が隣にあって当たり前になった時、もうひと押ししてやれば、織田は本当の意味で、お前に転ぶことになるだろうよ」
「な、なるほど…ここからが本番か…」
「お前はまだスタート地点に立ったばかりなんだ。ゆめゆめ油断すんなよ」
「そうだな…相手は天然のカサノバだ。うかうかしてると、釣った魚も持って行かれちまう」
「あの転校生のことか? なるほど、言い得て妙だな」

 ククッと笑ったマキは、眼鏡をきらりと光らせて、策を巡らす顔になる。

「よし、次の行動を起こすぞ。明日の昼食、お前と織田の二人きりでとれ。残りのメンバーにも、お前らの親密さを知らしめてやるんだ。いや…どうせなら、もっと人の多いところでやった方が面白いな。そうだ、食堂で宣言してやれ。お前と織田がダチになったってな」
「ええ? 織田と二人で飯っつーのは分かるが、わざわざ他の奴等に見せつける意味があるのか? うるさく騒がれそうで、面倒なんだが…」
「織田に安心感を与えることができるだろ? わざわざお前が人前でアピールして見せるほど、織田に本気なんだってな」

「…マキ…お前、策士だな…」
「桜学の孔明と呼んでくれ」

 キラキラした眼差しでマキを見上げれば、得意げに眼鏡をクイと持ち上げて見せる。

「本当に尊敬するぜ! 人を口説くにはそんなにも色んな策が必要なんだな。俺、女を口説くのに苦労したことねーから、すごく新鮮な気分だ!」
「…各務のくせに、生意気だ!」

 心のままにマキを褒めたら、お返しにげんこつを貰った。
 なぜだ、褒めたというのに。


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