その笑顔に、ゾクリと謎の悪寒を感じたが、提案自体はそう悪くはないかもしれない。
 恋愛感情云々は置いておいても、奴等の感情を俺に好意的なものに変えられれば、どれほどの助けになることか。
 本当にそうすることが可能ならば、乗ってみる価値はある。

「…俺に、出来ると思うか?」
「お前が本気を出せば、落ちない男はいないぜ、各務。その顔と身体と頭脳をフルに使って、生徒会の奴等を籠絡しろ。お前はカサノバになるんだ!!」
「カサノバ…」

 近世のイタリアに生まれ、1000人の女を落としたと伝えられる、伝説の色事師。
 全寮制の男子校に生きる俺が落とさなければならないのは、生徒会役員である5人の野郎共だが、その高名と功績に少しでもあやかるべく、俺は拳を握りしめ、声高らかに宣言した。

「分かったぜ、マキ…! 俺はカサノバになる!! カサノバになって、生徒会のアホどもを、一人残らずモノにしてやる…!!」

「そうだ各務、お前ならできる!! お前には俺が付いている!!」
「マキ…!! 頼れる相棒よ!! 心強き策士よ…!」
「各務!!」
「マキ!!」

 ちょっとおかしくなったテンションのまま、俺達はがしりと拳を握りあい、打倒生徒会を誓い合ったのであった。





「それにしてもマキよ、落とすっつっても、具体的には何すりゃいいんだ? 俺、男と付き合ったことなんかねーぞ」

 ずるずるとラーメンをすすりながら、俺はマキに尋ねた。
 その後、カサノバ計画と名付けられたプロジェクトを詰めるべく、日付も変わったというのに、俺とマキは額を突き合わせて作戦を練っていた。

「あ? ついさっき、親衛隊の奴等と、部屋で散々いちゃついてただろうが」
「あれはマッサージさせてただけだろ。あいつらとはキスは愚か、手を繋いだこともねーぞ」

 同性愛について寛容な校風にも慣れたし、親衛隊も持っている俺だが、さすがにそこまで深く突っ込む勇気は持てなかったのだ。
 というわけで、前も後ろも男性経験は皆無だ。
 そんな俺に、複数の男を手玉に取るような器用な真似ができるだろうか。

「マジか。まあいい、大丈夫だ、全部俺に任せろ。どのタイプにどのルー…ごふ、どの役員にどんな作戦を採ればいいか、俺は既にシミュレーション済みだ」
「そっちこそマジか?! 仕事が早いにもほどがあるだろ?!」
「まあな。役員達のキャラはテンプレ…いや、割と掴みやすい性格をしているから、対策も立てやすかったんだ」
「なるほどな…さすがは学年一の秀才だけある」

 何故か時折言葉に詰まるマキを、俺は尊敬の眼差しで見つめた。

「そんなわけで、作戦立案は俺が担当するからいいとして…各務、作戦を遂行する上で忘れないで欲しいのは、経緯を逐一俺に報告することだ。会話内容、相手の態度、反応、どんな些細なことだろうと漏らさずに、俺に事細かに教えて欲しい」
「…何でだよ? 大体の成り行きが分かれば、大雑把な説明でも十分じゃねえか?」
「そりゃあもちろん面白…いや、萌え…ごほ、作戦がうまくいくか、監督してやるためだろ。人間相手の仕事は、些細なミスでも綻びが生じかねないからな」
「今、面白いからって言いかけなかったか」
「空耳乙ー」
「マキ…てめえ、やっぱり俺で遊んでいやがるだろ!」
「おいおい、俺はお前のためを思ってこの計画を考えてやったんだろ。人聞きの悪いこと言うなよ。それとも、お前一人で計画を実行するか? 男経験のないお前にそんなことができるのか?」
「うぐ…」

 足元を見られて、俺は唇を噛んだ。

「できないだろ? お前は大人しく、俺の言うとおりに動いてればいいんだよ」
「ちっ…わかったよ。信頼してるからな!」
「素直でよろしい」

 やけになって叫んだ俺の頭を、マキがぐりぐり撫でてくる。俺は子供か。

「よし、じゃあまず、どのメンバーから籠絡するかだな。現時点で、お前に一番敵意を持ってなさそうな奴は誰だ?」

 問われ、俺は考え込んだ。

「んー…佐原はねえな。あいつ、俺にバリバリ反感持ってるし。三木本も双子も、何かっちゃ俺を貶しやがるし…織田…は、そういや、俺に対して罵倒はしてこなかったな。まあ、奴の場合はもとが無口っつーのもあるんだろうが」

 好かれてはいないのだろうが、積極的に嫌われている感じもしなかった。

「無口! いいんじゃねーの? 口下手なら、他の奴等と徒党を組むこともなさそうだしな」

 パチンと指を慣らし、マキが目を輝かせる。

「最初のターゲットは織田に決まりだな。寡黙書記×俺様会長…いいじゃねえか、萌えるぜ…!!」
「燃える?」
「相手にとって不足なしって意味だ。深く考えなくていい」

 マキは自信満々のようだったが、俺は正直なとこ不安だ。

「…だがマキよ…織田の奴、俺より頭半分でけぇんだぜ。無駄に男くせぇし、どう考えても俺に落ちる要素がねえぞ」
「自信持てよ、各務。お前は最高の逸材なんだ。無駄に男前なこの顔、肉体美に満ちた身体、腰に来るエロボイスに、器用な指先。お前の全てを活用して口説きにかかれば、落とせない男はいない!!」
「ほ、本当に?」
「ああ、支配するつもりで織田に挑め。世界の全ての男はお前のものだ!!」

 力強く背を叩いてくるマキの言葉に、俺は顔をひきつらせた。

「…それはちょっと、いやっつーか…」

 そういうわけで、最初のターゲットは、生徒会書記、織田正巳に決まったのだった。



【To be continued…】

| TOP |
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -