「辰巳サマ。奥まで咥えて」

 口内に突き入れられていたものが、そんな言葉ののち、俺の喉奥を一層深く犯す。

「んん…!!」

 大きなものに気道が塞がれ、呼吸もままならない。苦しさに、勝手に涙が滲み出す。

「駄目だぜ、泣いたって。俺をイカせられなきゃ、困るのはあんただろ? 上の口だけで終わらせられねえと、5限目に間に合わなくなっちまうぜ」

 反射的に逃れようとした俺の後頭部を掴んで、葛西が己のものをなおも強引に含ませてくる。葛西の腕に込められた力は強く、彼が達するまでは、どうあっても開放するつもりはないのだと伝えてくる。俺は怯みそうになる自分を叱咤し、口中の葛西の屹立に舌を這わせた。他人の性器を口で愛撫する…実に屈辱的な行為だ。だがそうしなければ、いつまで経っても終わらせることはできないのだ。


 昼休みに、葛西に屋上へと連れ出され、性行為を強要された。

 自分達の他に人気はなく、誰もこの姿を見ていないとは言え、白昼堂々の屋外でこうしたことに及ぶなど、考えられない。それまでにも校内で暴行されたことは幾度もあったが、晴天のもとでこんなことを…羞恥に身を焼く俺とは裏腹に、葛西は何の躊躇いもなく行為を強いた。俺の唇を使い、葛西自身を慰撫しろと。

 犯された回数は、もう数え切れない。その中で、口淫に及ばれたことも多々ある。だが、俺自身がそれを行ったことはなかった。今日、こうして葛西がそれを望むまでは。

「ふっ、うう、ん、く…」

 己の口を犯すこれを、いっそ噛み切ってやれないものか。酸欠に揺らぐ思考でぼんやりと思うものの、葛西のものは口内を埋め尽くすほどに大きく、含むだけで精いっぱいになってしまう。顎に力が入らない。噛みつくなど、到底無理な話のようだ。
 この苦しさから解放されるためには、葛西を絶頂に導かなければ…でも、どうやって? 方法など分からない。知るはずもない。見よう見まねで舌を使ってみるものの、葛西の快感を導けているのかも分からない。
 目からはぼろぼろと涙が零れ、口からは鼻にかかったような情けない声ばかりが漏れる。

「…やっぱ、止めた」

 葛西は目を眇め、唐突にそう言うと、俺の口から自身を引き抜いた。

「5限、サボりな」

 そしてベンチから立ち上がると、俺の身体を屋上の床へと引き倒しのしかかってきた。荒っぽい動作で俺の着衣を剥ぎ取り、常通りの目的のために下半身を解しにかかる。

「は、っ…!……くぅ、ん…ああっ…!!」

 ジェルを使われ、滑りやすくなるようにされたが、そんな小手先の措置が生半可に思えるほど、葛西の指は乱暴だ。こちらの息が整うのを待たずに無理やり突き入れ、狭い場所を割り割いて、奥まで何度もこじ開けるのだ。
 痛みに俺が悲鳴を上げるたびに、葛西の手は荒々しさを増してゆく。暴虐を必死にやり過ごしているうちに、不意に苦痛をもたらす指が抜き去られる。思わず安堵の息を吐いてしまうが、これで終わりではない。本当の凌辱は、ここから始まるのだ。

 空虚になった場所に、葛西の屹立がピタリと宛がわれる。先程まで、俺の口を犯していた大きなもの。それが今度は、俺の腹を犯そうと待ち構えている。
 さして間を置かずにもたらされるであろう苦痛と衝撃に備えて、身体から力を抜こうと試みる。抗ってもどうせ敵うわけがない。ならば、諾々と受け入れた方がまだしも負担は軽くなる。せめて、少しでも苦しくないよう…
 そう、虚しい努力をする俺を見下ろし、葛西はふっと笑う。

「…下の口が吸い付いてきてるぜ。そんなに待ち切れねえのか?」
「ちが…っ!」

 淫乱と笑われ、頭に血が上る。熱くなった俺の頬に、葛西がそっと手を伸ばす。先程までとは打って変わった優しげとさえ言える手つきで撫でられ、俺は目を見張る。しかし、その瞬間。

「焦らなくたって、ちゃーんとくれてやるよ…辰巳サマ」

「あああ、っ…!」

 予測を完全に覆されたタイミングで身体の奥の奥まで貫かれ、俺は身をのけぞらせて絶叫した。
 苦痛に、衝撃に、身体がぶるぶると痙攣する。
 涙で滲んだ視界の中で、葛西が満足げに目を細めるのが、ぼんやりと見て取れた。

 この男は、いつもそうだ。獲物をいたぶって遊ぶ猫のように。俺が苦しむ様を愉しんでいる。そこが、他の親衛隊員たちとは決定的に違うところだ。北見や大東は強引な行為の中にも俺を恭しく扱うし…南は…南は、まるで恋人を抱くように、優しく俺を労わった。
 俺を…裏切った張本人であるのに。南は、どこまでも優しくて…

 葛西の肩越しに、青空が鮮やかに目に映える。照りつける太陽が眩しくて、俺は流れるがままに涙を零した。


「…なあ、いい加減、落ちる気ねーの?」

 俺を貫いたまま動こうとせずに、葛西が問いかける。

「北斗サマは、あんたが思うほど非道じゃねえよ。今は辰巳サマが意固地になっちまってるから鬼畜っぽく振舞ってるけどさ、自分の懐に入れた人間には寛容だからさ、あの人。意地張って楯突くより、とっとと降伏しちまった方が、あんたにとっては楽だと思うぜ」

 葛西の暴行のそもそもの根源たる理由…それは俺に代わって学園の支配者となった北斗による制裁だ。
 己に従おうとしない俺を服従させるための、非情な手段。
 北斗に全てを委ねれば、こうして葛西による苦痛を与えられることもなくなる。
 しかし…

「…いやだ…」

 葛西だけではなく、北斗や大東、南から抱かれるたびにかけられる問いかけに、俺はまたしても首を振った。

「何で?」
「俺は…自分の信念を、曲げたくない…」

 信念…行き先を見失って、泥に塗れた俺の信念。それでも俺は、未だにこれを捨てられないでいる。

「何であんたはこんな惨めな状況になっても、真っ白なままでいられるんだ…?」

 驚嘆したのか、それとも呆れたのか。どちらともつかぬ声で葛西が呟く。

「…だから汚したくなるんだよ、辰巳サマ。あんたが、綺麗過ぎるから…泥塗れにしてやらねえと、俺のとこまで堕ちてきてくれねえだろ?」

 言うなり、葛西は荒々しい律動を開始した。

「うあああっ!!」

 身体の一番奥まで葛西の痕跡を刻みつけようとせんがばかりに。激しく打ちつけられて、身体が震える。

「あ…あ、あ…」

 太陽が眩しくて、涙が滲む。
 身体を痛めつけられて、涙が溢れる。
 屈辱に苛まれて、涙が零れ落ちる。

 涙が出るのは、そのせいだ。
 信じていた人間に裏切られたせいじゃない。
 親友だと思っていた人間がそばにいないせいだからでは、けしてない。
 けして…っ…

「南…っ」

 想いが、その名が…勝手に言葉となって滑り落ちる。
 悲鳴じみた喘ぎ声に比べれば、かき消えそうなくらい小さな叫びだったのに、その瞬間、葛西はその動きを止めた。

「…そんなにショックだったかよ? 南に裏切られて」

 いつもその顔に浮かべる緩い笑みを消し、葛西が別人のように低い声で問いかけてくる。

「俺が同じことをしたところで、あんたはそうやって傷付かないだろう?」
「それ、は…」

 そうだ、例え葛西に裏切られたところで、俺は南にそうされた時ほどには悲しまないだろう。
 なぜなら、葛西が常に俺に向けていたのは、獲物を追い求める獣のような飢えた眼差しだったから。
 信頼することは愚か、隙を見せることすらできなかった。
 油断すれば、いつその鋭い爪と牙にかけられるか分かったものではない。
 葛西には、信を置けない。ずっと、そう思ってきたから…

「お前は…南とは違う」
「…そうだな。俺はあんたの大事な南とは違う」

 俺の答えに、葛西は唇を歪めて笑った。まるで、自嘲にも見えるような笑み。

「だから、どんな卑劣な真似だろうがしてやるよ。あんたを手に入れるためならな」

 そう、吐き捨て。再び、行為が再開される。

 願わくば、なるべく早くに終わってくれ。望みのない祈りをかけて、俺は全ての現実を拒絶するよう、目を閉じた。


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