「あー…っ」

 おおよそ、容赦という言葉を知らない行為に、思わず涙が零れ落ちる。
 痛くは、ない…。ジェルの湿り気はあるし、切れてもいないのだから。
 だが、如何せん…苦しいのだ。それは多分、心地よすぎて…だ。
 平野ががつがつと激しく俺の中で自身を出し入れするたびに、前立腺が何度も押されて捏ねられる。それだけでも十分に気持ちいいというのに、前立腺とは関係のない場所でも…入り口や、狭い壁や、一番奥でも…突かれるたびに、感じてしまう。身体の中全てが性感帯になってしまったかのようだ。俺は一体、どうしてしまったのだろう。
 もはやそれは、恐怖を覚えてしまうほどの快感だった。

「うー…っ」

 強引に身体の内を暴かれ、無理やりに快感を与えられ、望まないまま感情を支配される。
 それは実に、被虐的で、背徳的な行為だ。だが、どうしようもなく、くせになってしまいそうなほど…気持ちいいこともまた事実なのだ。証拠に、俺のモノは腹につきそうなほど反り返り、とめどなく涙を溢れさせている。ああ、もう…限界だ…

「う…くぅ…」

 呻いて、俺は快楽の証を吐き出した。全身にどっと疲れが押し寄せる。
 そう言えば、親衛隊の生徒と三戦交えた後なのだ。初心者が初体験をするには、かなりハードな日程ではないか。

「ヒラ、もう…」

 息も絶え絶えにそう懇願すると、血走った眼で睨み返された。

「冗談でしょう?! ここまでさんざっぱら煽っておいて、自分一人イったらそれでおしまい?! 人を虚仮にすんのも大概にしてくださいよ! 先に好き勝手始めたのはあんたの方なんだ、だったら俺だって…自分の好きにやらせてもらいますから!!」

 そう言って、ヒラは若さと童貞ならではの勢いで、再び突っ走り出す。

 ああ…何たることだ。
 平野の欲望に火をつけてやりたいとは思っていたのだが…どうも、やり過ぎてしまったようだ。
 だがまあ、仕方がない。自分が撒いた種なのだ。ならば責任を取って、最後まで付き合わねばならないだろう。
 過ぎた快感は時として苦痛だ…だが、この苦痛も、平野とならば悪くない。
 顔を真っ赤にさせてがむしゃらに頑張る姿に、どういうわけだか俺は、愛着にも似た愛おしさのようなものを覚え、そう、満たされたような思いを感じていた。





 それから、数時間後。

「ヒラ…」
「…はい」

 寝台の隣で項垂れるヒラを呼べば、びくびくと脅えながらこちらを向く。

「何か、俺に言うことはないのか?」
「すいませんでしたぁあああ!! 俺ごとき雑魚が調子付いてマジさーせんっ!! 一回で止めらんなくて三回とか無茶しちゃって、面目次第も御座いませんんんん!!」

 違うだろう。俺が求めているのは、そういうことではないのだ。
 土下座する平野の顎をぐいと掴み、俺はにこりと、誰をも虜にすると言われる笑みを浮かべた。

「お前、俺と付き合え」
「えええええええ?!」
「幸い俺達は、身体の相性もいいようだ。俺の処女を奪った責任を取って、付き合え。俺も、お前の童貞を奪った責任を取ってやる」

 学園一と謳われる美貌を誇る俺に求められているというのに、平野は顔を蒼白にして首を振る。

「やですよっっ!! 俺みたいな平平凡が天下の生徒会長様の恋人になったなんて知られたら、あんたの取り巻きさん方に殺されますって!」
「命令だ。逆らえば、お前が乳首責めされてイキそうになっていたということを、全校中に広めてやる」
「いやぁあああああ…!」
「いや、それともお前が俺を押し倒し、好き勝手に弄んだとでも言った方がいいか?」
「真実じゃねえのに事実なとこがいやぁああああ…!」

 頭を抱えて絶叫する平野に、俺は諭すように言う。

「なあ、平野。お前、俺の身体で愉しんだだろう? 俺も、存分に楽しんだ。俺は、お前が嫌いじゃない。むしろ気に入っているし、それはお前もそうじゃないのか? だったら、何を躊躇う必要がある。本能のまま、求めあえばいいと思わないか?」
「…セフレさん方にはどう説明する気ですか」
「俺の本性はネコだったと言えば、諦めもつくだろう」
「のええええ?!」
「実際、タチよりもネコの方が気持ちいい。俺はきっと、こちらの方が向いているんだろう」
「いや、でも…」

 なおもぶつぶつと抵抗しようとするヒラに、俺はダメ押しの言葉をかける。

「なあ、ヒラ。一体誰が、この俺に逆らえると思うんだ? 親衛隊であれ、上級生であれ、お前であれ。俺は、誰が相手であろうと、自分の好きなようにするぞ」

 ついにヒラは、がっくりと肩を落とした。

「…いいえ、誰も。あなたに逆らえるものなんて、この学園どころか、この国にだっていませんよ…」
「なら、決まりだな?」
「どうぞ、高殿さんのお気に召すままに…」

 目を閉じて、諦めたように呟くヒラ。

 ふん…まだ、完全に俺のものにはなっていないようだが、それも時間の問題だろう。
 今まで培ってきた技術と、比類のないルックスと、万人を虜にするカリスマ性。その全てを駆使してお前の心を手に入れてやる。俺が本気で望んで手に入らなかったものなどないのだ。俺の意にならぬことなど、あるはずがない。そうではないか? だから平野、お前とてその例外ではない。

「覚悟しておけよ…?」

 ぐったりと寝台に倒れた平野の情けない顔を見つめ、俺は生まれて初めて、性的な興奮によるものではない快感に、胸を弾ませたのであった。




【End】

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