「あ…」

 ああ…。気持ちいい。よすぎる。たまらない…

 こんなに激しくも甘美で魅惑的な快感を、俺は知らない。
 生まれてこの方17年、この蜂蜜のように甘く、胡椒のように刺激的な快楽を知らずに生きてきたことを、俺はどれだけ後悔してもし足りないだろう。
 これまで他人の前立腺を散々刺激してやっていたのに、肝心の自分の方は手つかずのままとは、何たる怠惰、何たる損失。こんな体たらくで世の快楽の全てを味わい尽くしたようなつもりになっていたのだから、俺は本当に愚か者だ。

「あああ…」

 もはや当初の目的も忘れ去り、ひたすら自慰行為に耽る俺。だがしかし、快楽だけを追うことを、許してくれない人物がいた。ヒラが突然、俺の手首を掴んで行為を止めさせたのだ。予想外のことに、驚いて目を見開く。

「ヒラ…?」

 平野は俯いたまま、無言で俺の手をそこから外させると、代わりにもう一方の自分の手を、俺の中へと突き立てた。

「んん…?! ヒラ、お前…っ」
「だ、だって! そんなエロい光景見せつけられて、何もするなって方が無理ですよ!」

 こちらを見上げた平野は、頬どころか首筋まで真っ赤に染めて、唾を飛ばしかねない勢いでそう叫ぶ。

「人の腹の上で一人でオナニーショウするとか、何の拷問ですか?! 俺の理性の限界でも調べてんですか?! チクショ…いいガタイしてんのに、男くさいのに、無駄にエロいって反則でしょ…!! その気になんて、絶対なりたくなかったのに…!」

 その口からぐちぐち文句を飛ばす一方で、意外に器用な指先が、俺の下の口をクチクチと音を立てて掻き回す。むむ…ヒラの分際で、なかなか上手いではないか…

「そうだな…お前がいるのに一人上手なんて、無粋だったな。処女喪失の相手に選ばれた、お前の立場というものがない。いいだろう、お前に主導権を明け渡してやる。さあ、衝動のままに快楽を追い求めるがいい。そして、存分に俺を愉しませてみろ」

 平野の指を残したまま腰を落とし、ひょろい身体の上に腹這いになるように覆い被さる。

「くっそ…何で、こんな時までそんな偉そうなんだよ…っ!」

 顔をしかめてぼやきながらも、節ばった指はより一層激しさを増して俺の中を弄り出す。

「うん…っ」

 自分の指で刺激するよりも、どんな刺激が来るか予測できない他人の指の方がずっと、何倍も心地よい。
 後ろからの絶え間ない快感に頭を蕩けさせたまま、目の前にある耳たぶや首筋を舌でなぞれば、平野の身体がびくりと震え、与えられる刺激が、瞼の裏で火花を弾けさせるほど強烈なものになる。

「く、あああんっ…! そこ、あ…もっと!」

 平野が指を出し入れするのに合わせて、俺は無我夢中で腰を振る。

「あっ…あん、平野、平野…もっと…ひらおぉっ…!」

 麻薬のような中毒性が、脳味噌まで沁み込んでゆく。みっともなく舌っ足らずになった声でもっととねだると、突然視界がぐるんと回った。平野が俺の尻を掴み、互いの体位を反転させたのだ。


「最悪だ最悪だ最悪だ…何でよりにもよってあんた相手に…っ!」

 覆い被さる平野はそう呻くと、俺の太股を抱え上げ、身体を二つに折り曲げた。指が抜け落ちたその場所の、空虚を塞ごうというように、質量を持ったモノが宛がわれる。
 そこに目をやれば、寛げられたズボンの前から覗く、平野の怒張。その姿に、俺は思わず息を飲む。
 …ひょろっこい身体のくせに、持ち物だけは一丁前ではないか。いや、一丁前以上かもしれないな。何と言うか…とにかく予想外だ。

「最悪だ…っ…!」

 そして、そんな悔恨の声と共に、指などよりずっと太く熱いものが、俺の身体を深く抉った。

「あ…っ…」

 指とジェルで十分に解されていたとはいえ、比較にならないほど巨大なものに貫かれ、その圧迫感で息が詰まる。

「あ…あ、あ…」

 これ以上無理だというほどに押し広げられ、身体が軋む。苦しさに思わず逃げを打てば、腰をぐいと引き寄せられ、指などでは到底届かなかった奥の奥まで、無理やり身体をこじ開けられた。

「あああっ、いや、そこ、無理…っ」

 首を振って拒絶を示すと、身体を穿つ逸物がずる…と抜け落ちてゆく。解放感に思わず息をつくが、その瞬間を狙い澄ましたかのように、入ってきた時が生易しく思えるような勢いで、平野の凶器が一番奥まで俺を突き刺した。


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