しかし…つくづく特徴のない顔だな…

 先客との行為のため、皺の残ったシーツに横たわるヒラを見下ろし、俺はそんなことを考える。
 快感さえ得られれば取り立てて容姿には拘らないとヒラには告げたが、俺とて選べるならば、平凡なものより美しいものを好む。美というものも、視覚中枢に直接的に訴えかけてくる一種の快感だからだ。その点では平野は、どこまでも貪欲な俺の欲望を満たすには、やや物足りない相手かと思われた。
 だがしかし、緊張のため青白い顔で固く目を瞑ったその姿は、怪物に捧げられた人身御供の少女のような悲愴さとストイックさがあり、意外なほど俺の欲望を煽り立てる。全てを暴き立て、喰らい尽くし、滅茶苦茶に乱れさせたい…そんな衝動に突き動かされ、俺はせき立てられるように平野の身体に覆い被さった。

 シャツの襟を掴んで力任せに左右に開くと、露わになった小麦色の肌に口付ける。平野の身体がびくりと揺れ、その口から息を飲むようなか細い悲鳴が零れた。いかにも不慣れと言ったその様子が、ますます…何というか、そそる。
 …どうやら俺は、本格的にヒラの身体にのめりこみかけているらしい。この俺が、あんな、平凡に。

「面白いな…」
「何がっスか?! 俺はもう本気で泣きたい位なんスけど?!」
「強情だな…だが、すぐにイイと言わせてやる」

 歯を食いしばって顔を背けるヒラから、何とか甘い嬌声を引き出してやろうと、俺は持てる技術を総動員し、その身体を籠絡しにかかった。唇で身体のラインをたどり、掌で余すことなくなぞり、膝を使ってゆっくりと股間をさすり。他にも色々、俺が長年をかけて培ってきたテクニックを、全てその身に与えてやる。

「ふっ…うう…っ」
「素直に快感に身を任せればいいだろう。何を意固地になることがあるんだ」
「快感に負けたらっ…あんたに、喰われるんでしょーが…! それが、やだから…っ」
「この俺に逆らおうとは、生意気な…」

 どこまでも意地を張り続ける平野に、思わず舌打ちして身じろいだ足が、ふと固いものにぶつかる。何かと思い目線を下にやれば、そこには見事なテントを張った股間があった。

「何だ、嫌よ嫌よといいながらも、お前もしっかりその気じゃないか」

 立ち上がった男のシンボルを見て、俺はにんまりほくそ笑む。そう、この俺のテクに落ちない人間など、あってはならないのだ。

「あ、あんなことされたら、誰だってこうなるでしょー?! 俺が特別スキモノだとか節操なしだとか、そういうわけじゃないですから…!」
「乳首か? 乳首がいいのか?」
「ううっ、止めてぇ…」

 丁度攻めている途中だったそこを、重点的に舐めたり噛んだり揉んだり捻ったりしているうちに、平野のモノはますます固く大きくなってゆく。

「すっかり元気だな。こっちにはまだ指一本触れてないのに。乳首だけで、お前はこんなに感じるんだな」
「最悪だ…こんな男の中の男って感じの奴に、乳首責めされて勃つなんて…」

 目に涙を滲ませ、消え入りそうな声でヒラが呟く。ああもう、そんなしおらしげな態度は、俺をそそらせるだけだというのに。いよいよますます、アンアン言わせたくなってきたぞ。


「さて、次は俺の方も準備を始めないとな」

 される方は初めてなのだ。念入りに支度をせねば、入れる方も入れられる方もただ苦痛だけの行為になってしまう。幸い、下準備を施した経験は数え切れないほどある、今回はそれを自分の身に置き換えてやればいい。枕元に置きっぱなしであったジェルを取り、中身をたっぷりと指先に捻り出して、尻の狭間へと手を伸ばす。

「ん…」

 いつも抱いている相手にするように、まずは縁だけをゆっくりとなぞり、そこがリラックスしたのを把握すると、そっと窄まりへと指先を押し込んだ。

「ん、んんん…っ」

 人差指と、中指と。ぬめる粘膜がきつく締めつけてくるが、抵抗感はない。ゆっくりと、奥まで潜り込ませてゆく。

「…だ、大丈夫ですか…?」
「…妙な感覚だ」

 自分が襲われているというのに、俺を気遣ってくる人のいいヒラに、目を閉じたまま答える。

「違和感と圧迫感があって…痛みはないが、苦しいような…気持ち、いいような…」
「き、気持ちいいもんなんですか?」
「ああ、まだ前立腺には触れてないはずなんだがな」

 前立腺の場所は……指の第一関節ほど潜った場所を、腹側に押してみると…

「…ッ!」

 睾丸と陰茎を、内臓ごと鷲掴みにされたような衝撃が走り、俺は息を飲んだ。

 何だこれは。まさかこれが、前立腺による快感か?

 確かめようともう一度そこを押せば、蕩けてしまいそうな痺れが腰を包み込む。

「うう…っ」

 桁外れの快感に打ちのめされた俺は、思わずヒラの腹の上に手をつき、息を荒らげ激しく喘いだ。

「き…気持ち、いいんですか…?」
「これは…堪らないな…」

 今まで得てきた快感が、全て子供騙しに思えるような、圧倒的な心地よさだ。
 俺が快感を手に入れるのではない、快感が、俺を支配するのだ。

「あ、あ……うあ、っ…」

 俺は初めて自慰を覚えた猿のように、夢中になって快感を求め続けた。


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