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「大変だったんだぜ〜、今まで。会長さんと離れちまったもんだから、ハルの世話焼き症が全部俺に回ってきてさ。そんなにくっついてなくたって大丈夫だって言ってんのに、放してくれなくって」
「てめぇ! 和泉に面倒見てもらっておいて、何が不満だ!」
「あれ、ヤキモチ妬いてたくせにそんなこと言っちゃうんだ? ほんと、ハルは愛されてるよなあ」

 噛みつく俺を笑って交わし、平凡は部屋の扉を開ける。

「ハル、俺、今晩ダチの部屋に泊めてもらうから。学校にも大分慣れたから、もう一緒にいてくんなくても大丈夫だし。これからは会長さんの世話してやってくれよ。会長さん、あんたももうハルのこと泣かせねえでやってくれよな。俺の可愛い従兄弟、大事にしてやってくれ」

 そんな言葉を残し扉が閉められ、俺達は再び部屋に二人きりの状態へと戻された。
 先ほどの続きを始めたいところだが、何となくきっかけが掴めず、目を合わせないまま押し黙っていると、先に、和泉の方が口を開いた。

「…ずっと、大悟と私が付き合っていると思って、嫉妬してたんですか? 本当にあなたは馬鹿ですね」
「…惚れた奴が他の野郎とべたべたしてたら、嫉妬すんのは当然だろうが」
「あのね、日向。自分は何回浮気を繰り返してきたか、分かって言っているんですか? 十回や二十回じゃすみませんよ。そのたびに、私があなたと同じ想いをしてきたってこと、理解してます?」
「………悪かったよ」
「本当に反省してますか? あなたのことだから、私が甘い態度を見せた途端にコロっと忘れて、元の浮気性が復活するんじゃありませんか?」
「…俺は、浮気性なんかじゃねー」
「はあ? 両手じゃ数え切れないほど浮気を繰り返しておいて、今更何言い訳してるんですか」
「あれはっ…お前を嫉妬させたかったんだよ!!」

 多分、真っ赤になっているだろう顔で和泉を睨めば、わけが分からないという表情で見返してきた。

「は…?」
「だって、嫉妬してくれてるうちは、俺が好きってことだろ!! お前が俺を好きだってことを確認したかったんだ!! お前があんまり愛情を表に出さねえから、俺だってずっと不安だったんだよ!!」
「…馬鹿…」

 心底呆れたという様子で、でも驚きと喜びを隠しきれずに和泉が呟き、俺へと寄り添ってくる。
 そのまま俺の肩にこてんと頭を乗せる和泉。かわいすぎるだろ。

「傲慢だし、無神経だし、我儘でお子様だし…あなたみたいな馬鹿に惚れてしまった時点で、私の運の尽きだってことなんでしょうね…」
「さっきから馬鹿馬鹿って…じゃあ、その馬鹿に惚れてるお前は何なんだよ」
「もちろん、馬鹿です」

 きっぱりと、和泉は言い切った。

「あなたへの恋情に狂い、目も当てられないほど惨めな醜態を晒す私を、人は救いようのない愚か者だと笑うでしょうね。けれど、それでも…あなたへの気持ちは譲れない。誰に何と言われようとも、あなたが好きなんです…日向…」

あの、プライドの高い和泉が。

「和泉…!」

 体裁を繕うことなく、自分の矜持を捻じ曲げてまでして、俺への愛情を切々と吐露する和泉が、ただひたすらに愛おしくて。
 胸の奥から湧き上がってくる歓喜と欲望のまま、強く、強く抱きしめた。
 そして、今度こそ本当に、ソファへと押し倒すことに成功する。

「んっ…日向…」
「和泉……やっと、お前を抱けるのか…」
「は? 何を言ってるんですか?」

 ソファに横たわり、腕の中の和泉に感極まった声で囁けば、怪訝な顔で俺を見上げてくる。

「お前を抱くって言ってるんだよ、和泉」

 きっと今の俺の顔は、男前が台無しになるほどだらしなくやに下がっているだろう。
 仕方がない。ずっと、ずっとずーっとこの瞬間を待ち望んでいたのだから。喜ぶなと言うのが無理な話だ。

「は?」
「いや、だから…誤解も解けたことだし…いい加減、させてくれてもいいだろ?」

「 は ? 」

「さっき、どっちでも構わねえって言ったろ?!」

 無表情で問い返してくる和泉に、俺は少しだけビビりながら叫び返す。

「そうですね。ですが、今となっては別です。あなたの派手な男性遍歴の一人に埋もれるのはご免だ」
「派手な遍歴って…」

 裾から潜り込んでいた俺の手をペシンと払いのけ、和泉は俺の顔を両手で包みこんだ。

「日向…俺は、君の唯一になりたい…」

「い、和泉…?」

 今、俺って言った?

「今までもこれからも、君を抱くのは俺一人でいい。他の人間なんて、絶対に許さない。君の親衛隊だろうと、風紀委員長だろうと、他の誰だろうとも。君を愛していいのは、俺だけだ…」

 いつの間にか体勢を入れ変えられ、和泉に熱っぽい目で見下ろされる。

「今まで、遠慮して少ない回数にとどめておいたのが悪かったのかな。君に、愛を感じさせてあげられなかったんだよね?」
「あの…和泉?」
「俺がどんなに君を愛しているのか、これからじっくり、身体で教えてあげるから」

 和泉はそう言ってにっこり笑い、突然の豹変に呆然としている俺に口付ける。



 そうして俺は言葉通りに、和泉の愛の深さを教え込まれることとなった。
 どうやら、俺が思っているよりもずっと…和泉は、俺を愛していてくれていた、らしい。


 それを痛感したのは、声が嗄れるほどに喘がされ、意識を飛ばしてしまった翌日のことだったけれども。


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