「日向さま、副会長と別れてしまわれたという噂は本当なのですか!?」

 和泉のつれなさに、一人枕を濡らした翌朝のこと。
 俺は学校に登校するなり、ファンクラブである親衛隊のメンバーに取り囲まれていた。

「…何だお前ら、唐突に。どっからそんなこと聞きつけやがった」

「校内新聞の号外が貼り出されていたんです!」
 親衛隊隊長が、A3サイズの紙を俺へと差し出してくる。

『日向会長と和泉副会長、破局!』
 俺と和泉の写真の上に、でかでかとそんな文字が書かれている。
『原因は日向会長の度重なる浮気! 和泉副会長は、日向会長に絶縁を宣告!!』

「ふざけんな!!」

 叫び、俺は校内新聞を真っ二つに引き裂いた。
 怒りの足取りで廊下を進み、騒動の元凶となった人物の教室へとたどり着く。

「伊勢、テメエっ!!」
「何だい日向、珍しく取材を受けてくれる気にでもなったのかい?」

 胸倉を掴みあげる俺に、いけしゃあしゃあとそんな戯言をのたまうのは、新聞部の部長である伊勢だ。

「てめぇ、何考えてあんな根も葉もない下らねえ記事を書きやがった!」
「下らないなんて謙遜はいけないな。君と和泉氏はこの学園を注目の的なんだから。それに情報源は信頼できる筋からだよ。ちゃーんと根も葉もあるのさ」
「どうせあのお喋り雀の双子だろ!」
「情報源は明かさないよ。ジャーナリストとして当然の務めさ」
「何がジャーナリストだ! てめぇはただの愉快犯のアジテーターだろうが! とっととあのクソ下らねぇ新聞を回収しろ!!」
「ふ…悲しいかな、ジャーナリズムはいつの世も権力に迫害される定めにある。けれど、決して屈してはならない! 我々は誇りをもってペンで戦うと、魂に誓ったのだから!!」
「うっせえ、てめえの御託なんぞ知ったことか! 俺と和泉は別れちゃいねえんだよ! 回収する気がねえなら、訂正記事を出せ!!」
「和泉氏の方には確認を取ったよ。記載内容に間違いはないとの話だったけど」

「えっ…」

俺が絶句すると、廊下から俺達を見守っていたギャラリーが再び騒ぎ出した。

「本当に、別れてしまわれたんですね…」
「会長様、和泉様の代わりに僕なんていかがでしょう?!」
「ちょ、何抜け駆けしてんの? 会長様、こんなあばずれよりも僕の方が何倍もいいですよ!!」
「俺も立候補しよっかなー。日向なら、満足させてくれそうだし」
「ちょ、お前ら…!」

 わらわらと湧いてきた恋人志願者たちに周囲を取り囲まれ、俺はさすがに焦った。
 どさくさまぎれに色んなところを触られまくるわ、抱きつかれるわで身動きが取れない。
 こんな時率先して俺を守るはずの親衛隊員等も、俺の恋人の座を巡っての仁義なき争いに加わっており、事態は一向に収拾する気配を見せなかった。


「はっ…!」

 繰り広げられる醜い争いに圧倒されていた俺だが、不意にある可能性に思い至り、身体を強張らせた。

 俺がこんな目に遭っているということはだ。もしかしたら、和泉の方も同じような被害をこうむっているのではないだろうか。
 何せ、校内一の美貌を誇ると言われる和泉だ。俺と付き合っている時ですら、和泉を狙う輩は少なくはなかったのだ。
 こうしている今にも、欲望に満ちた薄汚い手が和泉に伸ばされているかもしれない。
 こんなところでぼさっとしている場合ではない。

「待ってろ和泉!! 今助けに行くからな!!」
「あぁーん、会長様ぁ…」

 取り巻きどもの輪から力尽くで脱出すると、俺は和泉を救うべく、駆け出したのだった。


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