13

「あんたはさっき、屈するつもりはねえって言ってたけどな。一番腕っ節の強そうなあんたがやられたんだ、どう頑張ったところで、自分の身を護れそうにないって思っただろうなぁ? お前みたいにマワされても、王雅様に仕えていたいって、いつまで思っていられるもんだろうな?」

 泣きながら脱退を訴えてきた親衛隊の姿を思い出す。
 彼を責めることはできない。だが、本音を言えば脅しに負けないで欲しかった。
 暴行に効果がないと分かれば、労力の無駄を厭い、そう長くないうちに嫌がらせも止んだことだろう。
 だが、一定の効果が見えたとなれば、こちらが音をあげるまで、ねちねちと続けられるに違いない。
今日、毅然とした態度を示すことで、彼等の意図を挫くことになるかと思っていたのに。
 滝口に実情を見透かされていたことに、俺は拳を握りしめた。

「お互い、主には苦労するなあ?忠犬君」

 床に引き倒された俺の上に、滝口が跨ってくる。
 おざなりに身体を慣らされ、俺は再び、滝口にその身を弄ばれた。

「っぐ!」
「なぁ、隊長さん。こんなことされちまって、惨めだろう? 上っ面はどんなに強がってようが、悔しくてしょうがねえだろ? 正直になれよ。言えよ、怖い、苦しい、辛いって泣き叫べ」
「っ、言った、だろう。こんなことは、何でもない…!」
「はっ! その強がり、俺が打ち砕いてやるよ」

 脱がされかけたブレザーのポケットを、滝口の手がまさぐる。

「何を…」
「見ーっけた」

 携帯を取りだし、滝口が笑う。

「なあ、誰を呼んで欲しい? 色ボケのご主人様か? それとも、親衛隊のお仲間か?」
「まさか…」
「実況してやろうぜ。俺達の真っ最中の様子をさ」
「貴様…ふざけるな!!」
「決ーめた。最愛のご主人様に伝えてやるか」
「止めろっ!!」

 手を伸ばす俺を避け、滝口が携帯の通話ボタンを押してしまう。
 お願いです、出ないでください…!
 そんな祈りもむなしく、僅かなコール音の後、王雅様の声がスピーカーにされた携帯から聞こえてくる。

『近衛? どうした?』
「もしもーし。元気ぃ?王雅様」
『その声…お前、あの時の?! どうしてお前が守也の携帯を使ってんだよ!!』
「さてさて、何でだろうなぁ。本人に聞いてみるか?王雅様」

 俺の口元へと携帯を近付ける。

「ほら、声出せよ。なぁ?」

 歯を食いしばっていた俺の口に指を突っ込み、同時に俺を貫いていたものを、深く抉る。

「うあああああっ!」
『守也!!』

 堪え切れずに零れた悲鳴に、王雅様が悲痛な声で俺の名を叫んだ。

『止めろ!! 止めろっ!! 貴様、どこにいる! 守也を放せ!!』
「特別棟の屋上で待ってるぜ。あんた一人で来いよ。余計なギャラリー連れてきたら、隊長さんの息子をちょん切って、本物の女にしてやっからな」

 そう言って通話を切った滝口に、皇徳が呆れ気味の顔を向ける。

「相変わらず、えげつねえ真似すんな」
「ははは、お褒めにあずかりどーもぉ。俺のそこが気に入ってる癖にー」

「貴様…!」

 目線で人を殺せるものなら、滝口はとうに死んでいただろう。
 余りの怒りに目が眩む。
 こいつは、俺を餌にして、王雅様を…!!

「大丈夫だーって、隊長さん。あんたの大事な王雅様には手出ししねえでやるから」
「何を…ならばなぜ、王雅様を呼んだ…」
「言ったろう? より効果的なやり方を見つけたんだってなぁ」

 そう言って、気まぐれな猫のように笑う滝口の姿に、俺は背筋が寒くなるような、言い知れない恐怖を覚えた。


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