12

 翌日。

 俺はZクラスの者等がよく利用するという、特別棟の屋上の扉の前に立っていた。
 一呼吸して心を静め、ドアを開ければ、居並ぶ不良たちの視線が一斉に突き刺さる。

「皇徳と話をつけたい」

 そう声を上げれば、上座の中心に座っていた男が、鋭い目を俺へと向けた。
 圧倒的な存在感と、強烈な威圧感。
 高校生離れしたカリスマ性を持つこの男が、皇徳。
 …王雅様に仇為そうと目論んでいる男だ。

「誰だ、テメェは」
「皇徳さん、こいつが例の野郎だよ。王雅様の親衛隊長君」

 皇徳の傍にいた滝口が、わざとらしく俺に笑って見せてから、そう注進する。

「なるほど。今まで散々邪魔してくれた男がコイツってわけか」
「単刀直入に言う。これ以上、王雅様や親衛隊に関わるな」
「ああ? 誰に対して命じてんだよ、てめえは」
「初めに、あなたに話があると言ったはずだが」
「るせぇんだよ。俺は俺のやりたいようにやる。誰にも邪魔はさせねえ」

 鋭い眼光に内心、怯みそうになるが、ぐっと腹に力を込め睨み返す。

「あんなやり方、情けないと思わないのか。あなたは手下を使わなければ、一人の人間の心も得られないと言っているも同然だろう。Zクラスのトップともあろう人間がそんなことで、部下に示しはつくのか」

 真正面から啖呵を切る俺に、周囲の不良たちがざわめく。
 今までこんなふうに明確に、彼等のボスに逆らった存在はいなかったに違いない。

「…一人で喧嘩を売りに来た根性は褒めてやる。だが、馬鹿だな。世の中、正攻法で上手くいくと思ったら大間違いだぜ」

 目を眇め、皇徳が俺を嘲笑う。

「分かっている。だが、被害者の立場に甘んじていれば、いつまでも食い物にされ続けるだけだろう。俺達は、このまま大人しくしているつもりはない。今日は、その覚悟を伝えに来たんだ。結果、俺がどうなろうとも、このままお前達に屈しはしない!」
「…ふん。いいぜ、覚悟とやらは受け取ってやるよ。だからって、手を緩める気もねえがな」

 冷徹なボスの声で、皇徳が命じる。

「フクロにして、王雅に送り帰してやれ」

 周囲からザッと殺気が膨れあがるが、それを治めたのは意外にも滝口だった。

「まあ待ちなって、皇徳さん。ボコるよりもっと効果的な方法を思いついたからさぁ」
「あ? てめえは前もそう言って、二度も失敗しただろうが」
「今度こそ大丈夫だって、マジで。どこを突けばいいのか分かっちゃったからさ、俺」
「次はねーぞ、滝口」
「心得ましたって、ボス」

 ボスという男にも飄々とした態度で応じ、滝口が近付いてくる。

「それにしても不用心だなぁ、隊長さん。一人でのこのこ赴いてくるなんざ、襲って下さいって言ってるようなもんだろ。それとも、前ので味を閉めて、俺に犯されたくてここまで来たのか?」
「写真をばら撒いた以上、俺を暴行するメリットなんて皆無だろう」
「そうでもねーぜ、自分を卑下すんなよ」

 シャツの襟に手をかけ、そのまま下へと一気に下ろす。

「残念。前の痕は消えちまったか」
「やりたければやれ。この程度のこと、俺には痛くも痒くもない」

 肌を撫でまわす滝口を、俺は冷めた目で見つめる。
 一度暴行を受けてしまえば、二度目は大したダメージにならない。
 殴る蹴ると言った暴行に比べても、肉体的な被害もさほどでない。

「ふーん。でもま、あんたが良くても、親衛隊の他の奴等はどうだろうなあ?」
「…貴様!!」
「まだやってねえよ。まだ、な」

 面白がるような言葉に、思わず冷静さを取り繕うことも忘れ、睨みつける。


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