「王雅様?」
「これ以上、守也を責めるな!」
「何だよ、俺は近衛のことを思って言ってんのに!! 王雅は近衛のこと、可哀想だと思わないのかよ!!」
「黙れ!!」
王雅様と吉峯が睨み合う。
漂う不穏な空気に眉をひそめる。心配して下さるのはありがたいが、俺のせいで彼等の仲がこじれるようなことになってはならない。
仲裁しようと口を開きかけるが、それよりも早く、横から声がかかった。
「近衛隊長!」
「葛木…」
そこには葛木以下、親衛隊の者等がそろい、俺を見つめていた。
「…お話が。よろしいでしょうか?」
「…王雅様、失礼します。親衛隊の者等には、話しておきたいので」
「…ああ、分かった」
誰もいない夜の教室に移動し、俺は隊員らに向き直った。
「何から話せばいいか…まず、聞きたいことは?」
「近衛さま。あの、あれは…本当に?」
「事実だ」
「そんな…!」
そっけなく肯定すると、小さく悲鳴が上がる。
「…お身体は?」
「大事ない。過ぎたことだ」
青白い顔で俺の身を案じてくる葛木に、俺は頷き返す。
「実行犯は、皇徳配下の者等だ」
「皇徳?!」
その名を告げれば、驚愕が親衛隊員らを襲う。
「今後は各々、身辺に気をつけるように。そうだな、行動する際には一人にならず、複数で移動した方がいいだろう。風紀委員にも注意を促しておく。人気のない場所には赴かず、不用意な行動は慎むよう」
注意を促し解散を告げ、隊員らがぱらぱらと戻って行く中、一人の生徒がいつまでも残っていた。
「あ、あの…近衛隊長…」
青ざめた顔で、彼は意を決したように俺に話しかけてくる。
「…どうした?」
「…こ、怖いんです…」
目に涙を浮かせ、彼は俺にそう訴えた。
「僕は、身体も小さくて、喧嘩もしたことがないし…家だって、普通で…。不良なんかに絡まれたら、絶対に、逃げられないから…」
「…分かった」
震える肩に手を置き、俺は彼の脱退を受け入れた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!! 僕、僕は…!」
「いや…今までよく仕えてくれた。礼を言う」
「近衛隊長…」
顔を歪ませ嗚咽を漏らす彼の背を軽く抱いて、俺は教室を出た。
全てもとに戻ったと思ったのに。またしても、壊されてゆくのか…
「近衛!」
暗い思いに塞ぐ俺に、廊下を少し行ったところで待っていた葛木が歩み寄ってくる。
「…すみません。あなたが苦しい時に、何の力にもなれず」
項垂れる葛木の背を叩き、俺は歩き続けた。
「お前が今も隣にいてくれる。それだけで十分だ」
「近衛…はい」
大丈夫だ、俺はまだやれる。まだ進める。
こんなことで、挫けてなるか。
顔をあげ、俺は前へと進み続けた。
「守也…」
明かりのついていない暗い部屋で、王雅様は俺を待っていた。
「大丈夫です、王雅様。俺は、大丈夫ですから」
これ以上、王雅様に余計な気を使わせられない。
「心配なさらないでください。近いうちに、話をつけます」
「…うちの力を借りれば、皇徳だろうと問題にはならない」
「いえ。旦那様達にはご心配をかけたくないんです。俺が一人でやれるうちは、任せてくださいませんか」
「…分かった。けど、無茶はするな」
「はい」
王雅様が信じていてくれれば、大丈夫だ。
俺は、負けない。