その後、宣言通り、俺の動画や写真がインターネット上の掲示板などにアップロードされ、アドレスを乗せたメールが、生徒達の携帯に無秩序に送りつけられる事態が発生した。
あまりに素早く行われた犯行に、俺は何の対処を取ることも出来なかった。
数時間もしないうちに、学園の大部分の生徒がそれを目にしてしまう。
暴行の事実が知らぬ者のないほどに広まったところで、俺は学年主任に呼び出された。
「…近衛。今回の事態の被害者は…お前に間違いはないのか?」
「はい。映っているのは俺に違いありません」
「あー…その、お前に暴行を加えた加害者は、誰か分かるか?」
「2−Zの滝口を筆頭に塩野、谷川の計三名です。皇徳の指示だと言っていました」
「皇徳君の?!」
その後調べた実行犯の名前と、黒幕の存在を知らせると、教師らは目に見えて青ざめた。
無理もない。皇徳の家は学園に多額の寄付をしており、彼が圧力をかければ、教師の首一つ飛ばすことくらい、何でもないことだからだ。
教師という立場であっても、皇徳に逆らうことはできないのだ。
「その…君とて体面を汚されたなどと、世間に公表したくはないだろう? ここは一つ穏便に済ませないか? こちらからも、皇徳君達に注意をしておくから」
「…そうですね、被害届を出すつもりはありません」
「そうか、そうしてくれるか」
ほっとしたように笑う教師達の姿に、初めから期待などしていなかったが、失望と軽蔑を覚える。
結局誰しも、自分の身が一番可愛いのだ。保身に走るのは仕方がない。
けれども俺は、そうはならない。
王雅様のためなら、この身を盾にすることも厭わない。
それが俺の矜持であり、ただ一つの誇りだ。
「ご用はそれだけでしょうか。では、失礼します」
「近衛!」
一礼し、その場を辞去すると、同席していた風紀委員長が追いかけてきた。
「…放埓な主を持つと、苦労するな」
「そうですね」
「俺から個人的に、皇徳に話をつけてやろうか?」
風紀委員長の家格と、風紀委員の勢力をもってすれば、皇徳に張りあうことも可能だろう。
だが、俺は首を横に振った。
「いえ、結構です。そうまでしていただく義理はありませんし、俺自身、気にしておりませんから」
「…タフだな、お前は」
「そうでなければ、王雅様の親衛隊長は務まりませんから。ただ、よければ王雅様の身の回りに関して気を配ってもらえませんか。俺が駄目なら、次は王雅様をということにならないとも限りませんから」
「分かった。王雅の身辺に目を配るよう伝令しておく」
「ありがとうございます」
「近衛!!」
そんな会話を交わしながら寮へと戻る俺達の前に、王雅様が駆け寄ってくる。
わざわざ待っていてくれたのだろうか。心配なさらなくとも、大丈夫なのに。
温かい心地になって、俺の頬は自然と緩んでいた。
「お前…大丈夫なのかよ!! 一体どうなったんだ?!」
「お願いですから、王雅様。どうか、お気遣いなく。俺の方は、何事もありませんから」
「でも、お前…」
「近衛! あれ、本当にお前なのかよ!!」
問い合う俺達の間に、王雅様と共にいたらしい吉峯が、強引に割り込んでくる。
「許せねえ! お前を襲った奴なんか、俺がぶっ飛ばしてやるよ! 誰にやられたんだ!!」
思い起こしたくもない事実を大声でのたまってくれる吉峯にうんざりしつつも、一応は王雅様の恋人として礼を尽くす俺を、誰か褒めて欲しい。
「…結構です。もう過ぎたことですから」
「どうでもいいわけねえだろ! 男なのにあんなことされて、悔しくねえのかよ!! あんな、女みたいなことされて!! 言えよ、誰にやられたんだ!!」
「止めろ!」
詰め寄る吉峯から庇うように俺を抱き、王雅様が叫んだ。