「王雅様、最近、随分とお盛んなようですが。少しはお控えになってはいかがです?」

 学校から寮への帰り道、緩い笑みを浮かべ、弾む足取りで歩む王雅様に、俺は笑み混じりに警告する。

「何だよ、いいだろ別にー。最近はちゃんと親衛隊の集会にも顔出してんだし、デートくらい俺の好きにさせろっつのー」
「王雅様の体調を慮って言ってるんです。あんまり励んでいては、そのうち腰が立たなくなりますよ」
「俺、そんなヤワじゃねーもーん」

 相手が吉峯というのが、正直気に食わなくはあるが、とっかえひっかえだった王雅様が、ただ一人に相手を定めたことは喜ばしい。
 親衛隊の方も、王雅様の一途な姿と、以前より近付いたかに見える距離感にほだされたか、不服の声は小さくなっていっている。
 何もかも、うまくいっている。

 満ち足りた想いの俺の前に、またしても波乱が訪れた……一人の男の姿を伴って。


「よう」
「滝口!」

 街路樹にもたれかかっていた男が身を起こし、俺達へと歩みよってくる。

「何だ、お前」

 訝る王雅様を賢しげな笑みでかわし、俺の肩を親しげに抱く。

「近衛くーん。俺のお願い、聞いてくれた?」
「断ると言ったはずだ。目障りだ、消えろ」

 馴れ馴れしい腕を払い落し、俺は滝口を睨んだ。

「冷てぇなぁ。身体まで重ねた仲だっつーのによ」
「は…? どーゆーことだよ…」
「王雅様のお耳に入れるようなことではありませんから」
「アッハハハ、美しい忠誠心だねえ。綺麗過ぎて、ドロッドロに汚してやりたくなっちまうな」

 心底、性根がねじ曲がっているだろう男は、実に楽しそうに、自らの暴挙を公表した。

「王雅様、あんたの忠犬君、俺等でマワしちゃった。ドロドロのグチャグチャになぁ」

「え…」

 王雅様が呆然とした顔になって、俺と滝口の顔を何度も見つめる。

「う、そだろ…?」
「ほーんと。証拠もちゃんとあるぜ。写メだけじゃなくって、ムービーもな」

 滝口は笑いながら、当惑する王雅様に携帯端末の画面を突きつけた。
 加害者の姿は映らないようにしてあるが、俺の顔と、挿入されている部位はしっかりと写してある。

「守、也…お前、ほんとに…?」

 今にも泣き出しそうな王雅様の顔を直視できず、俺は目を逸らす。
 滝口から受けた暴行の事実を伝えなかったのは、自らの身を守れなかったことに対する羞恥もあったが、何よりも、優しい王雅様を悲しませたくなかったからだ。
 こんな顔など、させたくはなかったのに。

「なあ、王雅様。忠犬の恥ずかしいシーンをばら撒かれたくなけりゃ、吉峯と別れてくれねえかな」
「ふざけるな!!」

 厚かましい要求をしてみせる滝口の胸倉を掴み上げ、俺は怒りのまま怒鳴りつけた。
 俺を出汁に王雅様を脅そうなどと、無礼にもほどがある!

「こっちは本気だぜ。画像も映像もネットに上げて、学園中の人間に送りつけてやる」
「ばら撒けるものなら、好きなだけそうしろ。俺は女じゃないんだ、貞節を遵守する必要なんてない。そんなもの、脅しにもなるか!」
「守也!!」

 悲鳴のように叫ぶ王雅様に向かい、俺は微笑んだ。

「大丈夫ですから、王雅様。こんなことは何でもないことです。俺はあんなものが出回ろうが気にしません。ですから、あんな脅しは気になさらずに。王雅様は吉峯との関係をお続け下さい」
「だけど…」

「ちっ…いいのかよぉ! 本当にやっちまうぞ!!」

 笑みを消し、滝口が恫喝するように叫ぶ。

「好きにしろ。俺は痛くも痒くもない」

 真っ直ぐ見つめ返す俺に舌打ちを一つ残し、滝口は身を翻した。

「守也…」
「大丈夫です。さあ、戻りましょう」

 そう、俺の身一つでことが済むなら、安いものだ。
 胸を疼かせる痛みを無視し、俺は王雅様の背を押し、寮へと促した。


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