「…随分遅かったな」

　痛む身体を引き摺り部屋に戻った俺を、王雅様の不機嫌そうな声が迎える。

「こんなに遅くなるなら、親衛隊の集会なんて止めちまえ。主に面倒かけさせるなんて、本末転倒だろ」
「申し訳ありません」

　頭を下げた俺を見て、王雅様がぎょっと目を見開く。

「おま…どーしたんだよ？！　顎、痣になってんじゃん！！」
「大したことではありませんから…」
「…もしかして…他の親衛隊の奴等に、シメられたりした…？」
「そう、なりますね。吉峯に好意を抱く人物の親衛隊に、警告を受けました」
「マジかよ…くそっ！」
「…王雅様、彼の存在は危険です」

　頭を掻き毟る王雅様に、俺は葛木から伝えられた言葉を繰り返す。

「可能な限りお守りいたしますが…親衛隊員の数が減り、戦力が減った今では、万全とは言い難いものがあります。万が一、王雅様の身にもしものことがあれば、俺は旦那さまと奥様に顔向けができません」
「分かってる！！　けど…こんな気持ちは初めてなんだ」

　切なげに眼を伏せる王雅様の姿に、俺の決意は固まった。

　守り抜こう。何としても、この人を。

「分かりました。吉峯との交際をお続け下さい」
「…いいの？」
「あなたがそう望むのなら。我々は一体となって、あなたも、吉峯帝人もお守りいたします」
「…悪い」
「それが、我々親衛隊の務めですから」
「うん…」
「王雅様、どうかこれからも、親衛隊の者等をお気にかけてくださいますよう。それだけは、お願い申しあげます」
「…分かったよ。寝たりはしねえけど、なるべく…声とか、かけるようにするから」
「ありがとうございます」

　俺はホッとして微笑んだ。
　そう、親衛隊との絆は、必ずしも恋愛関係である必要はない。
　強固な信頼関係さえ結べれば、それで十分だ。
　今からもこれからも、王雅様を支え、王雅様の力となり続ける。
　ようやく、親衛隊の本来あるべき姿を取り戻せる。
　統率者としての自覚を持った王雅様の姿を取り戻すことができる。

　そんな予感に、俺は重い肩の荷を、ようやく降ろした心地になれたのだった。



　…滝口の警告が、波乱の予兆に過ぎなかったことに気付けないままに。