思わず顔を引き攣らせた俺の頬を撫で、滝口が笑う。

「いーい顔だ。そんな顔が見たかったんだよ。なあ、まだ遅くはないぜ。こいつらにマワされたくなけりゃ、俺のお願いを聞けばいい。そうしたら、このまま解放してやるよ」
「…願い下げだ」
「んっとに強情だな。そこまでする義理があんの? あの遊び人のろくでなし坊ちゃんに、あんたがそうまで尽くす価値なんてねえだろ」
「俺は、王雅様のしもべだ…! 王雅様は、俺の全てなんだ!!」
「どうせ家柄目当てだろ? あの坊ちゃんとのパイプを作っておこうって魂胆だろうけど、自分の身体を張ってまで、そうする意味なんてあるのか? 自分のプライドよりも、将来の保身が大事なのかよ」
「違う!!」

 嘲弄するような滝口の言葉に、俺はたまらず叫んでいた。

「違う…! 俺は、そんなものは望んでいない!! 俺は、ただ…王雅様を、守りたいだけなんだ!!」



 俺は幼い頃、両親を交通事故で亡くし、養護施設に引き取られた。
 身寄りもなく、ただ一人、施設で何の希望もない日々を送っていた俺を、救いだしてくれたのが王雅様だったのだ。
 チャリティで家族と慰問に来ていた王雅様は、部屋の隅で一人ポツンと佇んでいた俺に、傲慢さを滲ませた声で話しかけてきた。

『お前、どうしてそんな元気ないんだよ。他の奴等は皆、俺が持ってきたお菓子やおもちゃに大喜びしてるのに。俺のお土産が、気に食わないのかよ』
『…別に…そんなわけじゃ…』
『じゃあ何で喜ばないんだよ。何が不満なんだ。欲しいものなら、俺が何でも用意してやるよ。言ってみろ』
『…俺が欲しいものは、誰にも持ってこれないよ』
『何だと? 俺に揃えられないものなんてないんだよ! 俺は王雅家の人間なんだからな! どんなものでも手に入れられるんだ』
『…無理だよ。君には無理だ』
『お前!! じゃあ、言えよ!言ってみろ!! 一体何が欲しいんだよ!! 言え!!』
『家族だよ!!』
『…な…』
『ほら、用意できないだろう!! 俺は、家族が欲しいんだよ!! 父さんと母さんと、弟が欲しいんだ!! そんなの、誰にも用意できっこない…!!』

 泣き出した俺を、しばし呆然と見つめた後、王雅様はご両親のもとへと歩みより、何事かを囁いた。
 旦那様と奥様は、初めは当惑したご様子だったが、王雅様が強い口調で促すと、顔を見合わせ、肯いた。

『おい、お前!』

 ぐすぐすとしゃくりあげる俺の肩を、王雅様が強く揺さぶる。

『…何だよ。もう、放っておいてよ』
『お前に家族をやる!』
『え…』

 呆然とする俺の前に、旦那さまと奥様が、優しげな笑みをたたえてしゃがみこんだ。

『こんにちは、近衛守也君。私は祐樹の父親だよ。もし、君さえよければの提案なんだけれど、僕達の家族にならないかい?』
『兄弟がいた方が、祐樹もしっかりした子になってくれそうだしね。歓迎するわよ、守也君』
『ほらな、言ったろ! 俺にできないことなんてないんだからな!』
『あ…』
『来いよ。俺の家族になれ』

 そうして俺は、差し出された手を、おずおずと握りしめたのだ。

 里子として王雅家に引き取られた俺は、何の不自由もない生活を送れるようになった。
 優しい旦那さまと奥様と、我が儘で傲慢ではあるけれど、やっぱり芯では優しい王雅様と、俺は満ち足りた生活を送ることができるようになったのだ。
 絶望の淵にいた俺を、光のあたる場所へと掬いあげてくれた王雅様。
 どれだけ感謝しても、足りることがない。
 だから俺は、この身を王雅様のために捧げようと決めたのだ。



「俺の王雅様への想いを、侮辱するな!!」

 精一杯の殺気をこめて、滝口を睨みつける。

「は…! ほんっと面白ぇな、お前! いいぜ、どこまでその忠誠心が続くか、試してみようじゃねえか。なあ?」

 俺の身体へと手が伸びてくるのを最後に、目を閉じる。
 こんなことは何でもない。
 王雅様のためならば、俺の身体などどうなろうが構わない。

 王雅様。全ては、あなたのために…


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