「失礼いたします、王雅様」
部屋に戻った俺を待っていたのは、王雅様だけではなかった。
「あ、お前! 王雅のダチの近衛だっけ?」
ソファに腰掛けた王雅様の膝の上に、件の編入生、吉峯帝人が厚かましくも陣取っていた。
「いいとこなのに邪魔するなよ、近衛」
不機嫌な顔になった王雅様は、俺に見せつけるように編入生の頬に口付けを落とす。
「わっ! 人前で何すんだよ!」
「ご無礼、お詫びいたします。ご報告が…」
「堅苦しいなー。王雅も近衛も友達なんだから、もっとフランクに行こうぜ!」
俺の言葉を遮って出しゃばった発言をする吉峯を無視し、王雅様へと向き直る。
「申し訳ありません、王雅様」
「なに?」
「…隊員ら数名が、脱退を申し出てきました。俺の、監督が行き届かなかったせいです。お叱りは、謹んでお受けします」
「ふーん」
俺の謝罪にもまるで興味がなさそうに、王雅様は吉峯を愛撫し続けている。
「お前がいれば、どうとでもなるだろ。抜けようが潰れようが、どうでもいいよ」
「そうだぜ! 親衛隊があるせいで、王雅達は友達が作れなかったんだろ! そんなもの、いっそなくなっちまった方がいいぜ! その方がみんな、幸せになれるだろ!」
俺を、王雅様の親衛隊隊長と知っての暴言なのだろうか。
邪気のない言葉に苛立ちが募り、怒鳴りつけてしまいたい衝動にかられる。
俺の苦労も、献身も、犠牲も、何も知らない癖に!
何も知らない癖に、お前は王雅様を…
「そうだな。いっそ、なくなってしまえばいい」
王雅様のその言葉に、俺は全身から力が抜けていくような錯覚に囚われた。
「だよな! それに、王雅には俺がいるし!」
「ああ。お前がいれば、それでいい」
「は…」
王雅様は、親衛隊を煩わしいものだと感じているのか。
自分に害成すだけの、邪魔な存在だと。
…俺達の。俺の、今まで続けてきたことは、一体なんだったのだろう。
彼を守るために、彼に仇為す者を排除し、生徒会役員としての彼を補佐し、彼を陰から支えて…
献身も、奉仕も、愛情も。
全て、王雅様には届いていなかったのだろうか。
「…失礼いたしました」
そのまま部屋にい続ければ、見境なく喚き散らしてしまいそうな気がして、俺は逃げるように部屋を出た。