昨日が遠くで泣いた 「ナギニ、僕は君を愛してるよ。」 学年末試験も終わって、私は久しぶりにトムに会いにいった。すると突然トムにそう言われた。 「あら、ありがとうトム。私もよ。」 「違う、好きじゃない、愛してるんだ。」 「……何言ってるの?トム。私とあなたは種族が違うわ。」 「分かってる。……でも、君は本当に蛇か?」 「……え?」 私は胸がどくんと鳴った。トムは真剣な顔で私を見つめた。え、どういうこと。まさかトムは、気付いてるの? 「…蛇よ、私は。」 「僕は、君が人間だと思ってる。」 「ずいぶんな妄想ね。」 ちょっとキツイ物言いだったかもしれない。彼に会って4ヶ月。試験前には現れない私の正体に、学年トップの成績の彼が気付かないはずがなかったのかもしれない。あぁ、私ってどれだけ間抜けなんだろう。 「……もし私が人間だったら、どうする?」 ほとんど賭けだった。ちろっと舌を出してトムを見上げる。トムは、びっくりするほど優しく微笑んで、 「僕と結婚して欲しい。」 と言い放った。 私がもし人間の姿だったら、口を開けて、間抜けな顔をしていると思う。ありえない。この人は何を言ってるんだろう?もし私が純血のスリザリン生だとしても、会って4ヶ月しか経ってないし、私はなにもしてないのに。どうしてここまで思い詰めることができるんだろう。 「…私、ずっと不思議だったわ。どうしてあなたはそんなに私を愛してくれるの?」 「…好きになってたんだ、いつの間にか。初めての感覚だ…蛇にも人間にも、こんな感情を抱いたことはない。」 トムの瞳はちらちらと怪しく光っていて、今までで一番蛇のようだった。それは、蛇に向けるものではない。まるで、愛しい人を見つめるような、熱っぽい目。変な人。私の両親ですらこんな顔はしなかった。蛇に本気で恋をするなんて。 トムはさっと杖を取り出した。私はびくりと後退りする。 「アニメーガスを、元の姿に戻す魔法がある。君がただの蛇なら何も変わらない。」 私は、逃げた。 するすると地面を這い、急いで茂みに隠れる。トムは私を追いかけなかったけど、これで私がアニメーガスだということはバレただろう。 私はずいぶんあの場所から離れてから、人の姿に戻った。視界に色が広がる。 私を愛してる?人間の姿に戻す?結婚したい?冷静になれてないわ、優等生の彼らしくない。 落ちこぼれのハッフルパフ、マグル生まれ。顔だって可愛くないし、頭も良くない。私なんかはトムの横に立つのにふさわしくない。 でも、罪な人だ。私もいつの間にか、あなたを好きになってたみたい。でも、私は駄目なのよ。あなたの前に姿を現してがっかりされて、それでも学校ではあなたの姿を見なきゃいけないくらいなら、もうあなたに蛇の姿で会うのは、やめるわ。彼は、私が蛇だから、きっと純血のスリザリン生だと勘違いしてる。だから結婚したいなんて言ったんだ。父親に取り入るために付き合った彼女のように、私に後ろ楯があると思ったんだ。 ごめんなさい、トム。 |