人は運命を選べない 「こんにちは、トム!」 「やぁナギニ。」 差し出されたトムの腕にしゅるしゅると巻き付き、彼の整った顔の横に顔を出した。 「遅かったわねトム、今日は何かあった?」 「いつも通りだったよ。でもスラグホーンがしつこくてここに来るのが遅れてしまったんだ、ごめんね。」 「全然、責めてないのよ。」 「君に会える時間が減ってしまった。」 トムは私に愛しそうに頬擦りをした。彼と会ってから今日でちょうど3週間。まるで恋人のような会話だ…二人の共通語が蛇語でなければ。 トムは蛇が大好きらしい。私に付けてくれたナギニという名前も、前々から考えていた名前らしい。ここまで蛇を愛す人間は、両親以外に見たことがなかった。この人もいわゆる、変人なんだろうか。トム・リドルが蛇と話せるなんて、学校では噂ですら聞いたことはなかったのにな。 「嬉しいわ。トムは、ハンサムだから。」 「蛇から見ても、僕はハンサムに見えるの?」 「人間から見ても、トムはハンサムなの?」 私がそう言うと、トムはおかしそうに笑った。 トムと会うのは大抵、授業終わりから夕食までの間だった。トムは今まで、いろいろな話をしてくれた。それはもう、なんでも。孤児院のこと、学友のこと、勉強のこと、将来したいこと。彼は私がアニメーガスだなんてこれっぽっちも考えてないみたい。あのトム・リドルがここまで心を開いてくれるなんて思ってもみなかった。トムとお話したい人は、蛇になってみると良いかもね。 でも私は、トムと話せば話すほど恐ろしくなった。彼はマグルの父親を心から嫌っている。そしてサラザール・スリザリンの野望を、1000年前の思想を受け継ごうとしている。ホグワーツに通うべきは、純血のみ…私はマグル生まれだから、きっと私の正体が分かれば、トムは私や私の家族を殺してしまうんだろうな。 少し悲しくなってトムの頬を舐めると、彼はくすぐったそうに笑った。 |