わたしの意味 | ナノ





溺れた魚




「きゃあああ!蛇!」

女の子の甲高い声が聞こえる。ちろちろと舌を出して近付いてやると、足をばたつかせて、踏まれそうになった。

「あっちいってよ!」
「気持ち悪い!」

ひどい言われようだ。ふん、と内心笑って、私は地面を這いその場から離れた。

私が初めて自分が蛇になったと気付いたのは、7歳のとき。そう、私は天然のアニメーガスだ。しかし、実は未登録。天然のアニメーガスなんて例がない。七変化とも違うし。
私の両親はただのマグルだったけど生物学者で、爬虫類が大好きな変人だった。だから私が蛇になっても気味悪がるどころか、神様の贈り物だ、とありがたがった。変な人たちだとは思ったけど、捨てられなくて嬉しかった。だから、好きだ。時々蛇と通訳をしてあげたこともあった。そのおかげで私の実家には何種類もの蛇がいた。
すぐにコントロールできるようになった私はホグワーツに着てからも一度も自分がアニメーガスだとは明かしていない。ただ、私を動物に例えるなら蛇かな、と言われたことはある。別に蛇みたいな顔をしてるわけでも、スリザリンというわけでもないのに。もしかしたらルームメイトが鋭いだけかもしれない。


あ。
ふと、行く手に男の子が一人いることに気付いた。禁じられた森の近くで、彼は一人佇んでいた。男の子はあんまり蛇を怖がらないけど、悪戯をしてくるから好きじゃない。しっぽを掴んで振り回されたり、木の枝で叩かれたり。
でも、彼はそんなことしそうにないと思った。
彼の名前は知っている。トム・リドル。スリザリンの監督生で、学校のアイドル。スリザリンだというのにグリフィンドールの女の子にも多数のファンを抱えている。ハンサムで、頭も良くて、人当たりも良い男の子。私は彼を蛇みたいだなぁとよく思っていた。顔が蛇みたいなわけでもないのに…あぁ、もしかしたらルームメイトは、私がリドルに抱くような印象を私に抱いていたのかもしれない。

「こんにちは。」

シャー、という音が口から出た。いわゆる蛇語。

「こんにちは。」

彼は微笑みながら私を見て、そう言った。…蛇語で。私はびっくりして、思わず仰け反ってしまった。

「驚いた、私の言葉が分かるのね!」
「うん。分かってて話しかけたんじゃないの?」
「もちろん、知らなかったわ。どうして蛇の言葉を話せるの?」
「生まれつきなんだ。」

パーセルマウス。人間でありながら、蛇の言葉を理解する能力。たしかスリザリンの創始者も先天性のパーセルマウスだったとか。この子は創始者の生まれ変わりかなにかかな。スリザリンだし。

「初めてだわ、人間と話したのは。」
「そう。みんなそういうよ。」
「みんなって、蛇?」
「そうだよ。」

トム・リドルはかがんで私の顎を指で撫でた。その優しい指使いに、私はびっくりした。こんな、犬か猫を撫でるように、優しく触られたのは両親以来だ。

「君には、毒がある?」
「いいえ、残念ながら。でも人間は逃げるの。変よね。」
「ああ、変だ。」

クスクス笑う彼は、確かにハンサムだと思った。でも、やっぱり蛇みたい。










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