鬼ごっこの箱庭 | ナノ





近付く





「あの、この前は本当にすみませんでしたシリウスさん。母が調子に乗っちゃって」
「いや…それを言うならこっちの奴らもですし」

結論から言うと、俺たちは付き合うというか、とりあえず俺はこの店に通うことになってしまった。そりゃあ断れば良かったんだが、ライカーさんやエリさんも別に悪い人じゃねえし、サンドイッチや紅茶も美味しかったし、通うこと自体は別に良いと思ったわけだ。あのあとほとんどエリさんと言葉を交わせず、ハリーがウトウトし始めたのでさっさと帰ってきてしまった。また今度シリウスだけ来ます、とジェームズがやっかいな一言を残して。


それから2週間が経ち、再び土曜日のランチタイム過ぎに俺はここを訪れた。自分のバイクに跨って。マグルの警察とかに止められたら困るが、幸い何も言われなかった。

偶然(なのかは定かじゃないが)ライカーさんはいなかったので、カウンター席でエリさんと言葉を交わす。この前のサンドイッチをかじりながら目の前でもじもじするエリさんを眺める。
うーん、可愛い。顔をホンの少し染めてるところも、ふわふわしてそうな栗毛も、仕草も、可愛いんだが、それ以上の感情はわかない。ジェームズはリリーにほとんど一目惚れだったし、恋愛ってしようとしてするものじゃないと思うし。俺はやっぱりエリさんと付き合うなんてことはできないだろう。可愛いと思う、それだけで付き合うのか?

…あーいや待て俺。在学中にそれやったじゃないか。ハンサムだからいろいろ経験豊富なんでしょ?とか訳の分からないことを言ってきたレイブンクローの一つ上の可愛い女子。こんなふうにもじもじしてたけど、まぁいいか、と俺がOKすると徐々に本性を表した。
人前でベタベタ触ってきたり、どうして手紙くれないの?とかわけわかんないこと言ってすねたり、空き教室に連れ込まれて誘われたり。それでも何もしない俺にしびれを切らした先輩が「この童貞野郎!」と可愛らしい顔を歪めて叫んだ。それもご丁寧に、大広間の一番人が多い時間帯に。
そのおかげで俺は知り合いに「よう童貞」と声をかけられ、廊下でしょっちゅう「童貞…」という呟きを聞くことになった。怒りよりも驚きや呆れのほうが大きかった気がする。実際あのときはそうだったんだ。それから1年後くらいに童貞卒業したけど、卒業させてくれた先輩も「うわ、本当にそうだったんだ…」とか言ってた。ハンサムは早々に卒業してるなんて先入観は捨てろ。いや、俺がおかしいのか?まぁ、それすらもう5年以上前の話だ。それからも恋人はできたけど、恋はしなかった。
別に女にトラウマなんて持ってないし、このエリさんに裏があるとも思っていないが、やっぱり今までの女と同じなんじゃないかという思いはある。


「あ、あの、シリウスさん?」
「はい?」

エリさんは伏し目がちだった目を俺に向けた。その目はライカーさんと同じ澄んだ青い目だった。そういえばこの前来たときは気づかなかった。なぜだろう。俺はまたドキリとした。でも恋じゃない 。これが恋ならライカーさんにも恋してることになる。

「え、いや、あの、ちょっと難しい顔をしていたので」
「…そうですか。すみません、ちょっと昔を思い出していただけです」
「昔?」
「はい」

エリさんは頬を桃色に染めて、せかせかと手元でコップを磨いていた。ホッグズヘッドのあの汚いコップを思い出し、思わず顔をしかめた。

「サンドイッチ、美味しいです。紅茶も」
「えっ、あ、ありがとうございます!」
「でもこの前のとはちょっと味が違いますね」
「あ、わ、分かるんですか?えっと、今日のは…私が作ったんです」

エリさんは顔を真っ赤にして俯いた。あぁ、そういえばこの前はライカーさんが作っていた。
俺はなんとなく、この前アパートでした妄想を思い出した。自分のアパートのキッチンに、顔も知らない女が立っている。それが、エリさんだったらどうだろう。


「シ、シリウスさん、何が食べたいですか?」
「うーん、なんでも」
「え、な、なんでもは…困ります」
「…じゃあサンドイッチかな」
「わ、分かりました!」



……ぎこちないな。恋人って感じが全然しない。だからといってこの前みたいなくだけた感じも想像できない。

「……エリ」
「は、はい!……って、え、えーと、え?は、はい?」
「敬語、やめねぇ?おれあんまり敬語って慣れてなくて。俺のこともシリウスでいいから」

年上の女を呼び捨てにすることに抵抗はなかった。いやさすがにライカーさんくらい離れてたらちょっと遠慮するけど。だってこの人全然年上って感じもしないから。エリは俺の言葉に顔を真っ赤にして何かを考えるようにうーんと唸った。俺はサンドイッチをもぐもぐしながら返答を待つ。

「……シ、シリウス………くん」

さん付けと呼び捨てと迷った挙句の、妥協案らしい。顔から湯気が出るんじゃないかというくらいつるつるの頬を真っ赤に染めたエリを見て、俺は思わず笑った。









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