鬼ごっこの箱庭 | ナノ





疼く





唯一無二の親友の一人息子、ハリーがつい先日3歳の誕生日を迎えた。
親友、ジェームズとその妻のリリーは学生時代からの付き合いで、俺はハリーの名付け親だ。そんなに危険な世の中ではないが、闇祓いとは危険な仕事だから、念の為。だから俺はハリーを実の息子のように可愛がっている。というか可愛いんだ実際。確かにちょっとやんちゃだが、親友と違って嫌な笑い方しねえし、リリーみたいに暴力的じゃない。もちろん赤ん坊だからだが。


「…ねえ、パッドフット」

職場も同じで机も隣なジェームズが俺を変なものでも見るように見ながら話しかけてきた。

「なんだよ」
「あのさ、君がハリーを可愛がってくれるのはもちろん嬉しいけど、君それ仕事する環境じゃないよね。実の父親の僕よりも机の上のハリーの写真が多いのはおかしいよね」

ジェームズが俺の机の上をビシッと指差した。
机の上を囲む壁にはビッシリと動く小さなハリーの写真がしきつめてあり、時々一緒に、大きな黒い犬が映っている。何枚か数えろと言われると、めんどくさい。
大してジェームズの前には、リリーとジェームズとハリーの映った写真と、リリーとハリーそれぞれもしくは両方が映った写真が3枚。合計4枚。あとは仕事のメモなんかがびっしりと、マグル式に貼ってある。
確かに俺の周りはハリーと犬が動きすぎて目がチカチカするくらいで、仕事に集中できるかと言われればできない。ただし俺ならできる。なぜなら天才だから。

「仕事やってるからいいじゃねえか。ハリーは俺の名付け子だし」
「名付け親っていうのはね、両親が存命してれば普通用無しなんだよ」

ジェームズはもっともなことを言いながら大きくため息をつく。

「パッドフット、もう23なんだし、そろそろ良い人見つければ?いつまでもハリーのおっかけしてないでさ。君のおっかけ、魔法省の窓口までやってきてて迷惑だよ。君に恋人が1人できればちょっとは…収まらないかもしれないけど」

ジェームズは自分で話しながらも、途中で諦めたように目の前の書類に向き直った。

「良い人ねえ。だって出会いも特にねえしな…。同い年のサラには恋人いるし、1つ下のミシェルは婚約者いるし、身近な女ほど俺に惹かれないんだよな。俺も惹かれないけど」

俺は目の前の写真の中ででぴょんぴょん跳ねる犬を見ながらつぶやく。

「わがままだなぁ。まぁ、こんな身近に運命の人と結ばれた人間がいるから、そう思うのも無理はないけど」

ジェームズの声が少しだけ高くなったのでチラリと顔を盗み見ると、ふにゃっと緩んでいた。親友のその様子に顔をしかめて、俺は書類に目を通す。
責任者の欄には、学生時代の先輩で親戚の名前が書かれてある。

「金持ちは得だよな」

俺がつぶやくと、ジェームズがん?と聞き返してきたので、なんでもないと答える。
そういえば、ジェームズも金持ちで俺も元金持ちだったわ。

「あ、そういえば僕の行きつけの喫茶店に可愛い店員がいるよ。リリーに教えてもらった完全にマグルのお店だけど、良かったら行かない?」
「 この書類の山が片付いたらな」

俺がガリガリとはねペンを動かしながら答えると、ジェームズは顔をしかめて、

「そういえばあのお店は20時までだったな」

と独り言のようにつぶやいて時計を見た。俺もつられて時計を見ると、19時。残念、今日は行けないな。









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