鬼ごっこの箱庭 | ナノ





寄り添う




魔法使いなんて、いるわけない。シリウスくんが好き。シリウスくんも私が好き。…両想い…なのに。
シリウスくんが変なことを言うからだ。魔法使い、手品師のこと?シリウスくんはジェームズくんやリリーちゃんも同じ魔法使いだと言う。じゃあ、ハリーくんも?そんな馬鹿な。だって、みんな同じ格好をした人間で、服装も、しゃべる言葉も、食べるものも、全部一緒だったじゃない。やはりシリウスくんはかわいそうな人なんだろうか。

「魔法使いって、手品師のこと?」
「……違う」

最後のたのみの綱はなくなってしまった。ネバーランドのように、世界が分かれていて、魔法使いは自由に世界を行き来できるとか、そういう設定なんだろうか。

「じゃあ、その森の中に、連れて行って」

私はシリウスくんの目を見て言った。シリウスくんの目が一瞬泳いだ。たぶん、さっきの杖から水を出されたり鳥を出されたとしても、トリックはわからないけど私は手品だとわりきってしまうと思う。瞬間移動なんて、てっとりばやいじゃないか。できるわけ、ないけど。

「……本当に、いいのか?」

シリウスくんは困惑したような表情を浮かべた。さっき、気分が悪くなるとか言っていたから、そのことを言っているんだろうか。でも、残念ながらそれはないんだよ。一瞬でフランスになんか、行けるわけないから。

「うん、やってみてよ」

私は半ば挑戦的だった。シリウスくんがそれをできなければ、諦めよう。今までありがとう。シリウスくんが変な人って分かったから、もう大丈夫だと思う。あのままだったらひきずってただろうけど。あ、もしかしたらシリウスくん、私を諦めさせるための演技なの?…なんて。

「…じゃあ、しっかり捕まってて。すごく変な感覚だろうけど、絶対俺に捕まってろよ。」

シリウスくんは私の肩に手を回ししっかりと掴んだ。私も一応、シリウスくんのジャンパーを掴む。こんなときでも、シリウスくんに密着していることにドキドキするなんて、本当に情けない。

「行くぞ。…せーの」

シリウスくんが体を傾けた瞬間、ゴム管の中に押し込められたようにギュウギュウと締め付けられる感覚が体中を襲い、息ができなくなった。

でも次の瞬間、私は眩しい光の中に立っていた。

嫌な感覚のあとに、 自分の足が固い地面についているのがおかしく感じて座り込みそうになった私を、シリウスくんが支えてくれた。

まばゆい光、周りにはいろとりどりの花が咲いていた。四方は木に囲まれ、ここは森の開けた場所らしかった。とても、綺麗な景色だった。

…私は声が出なかった。さっきまでイギリスの暗い路地裏にいたはずなのに。幻覚?催眠術?隣にいるシリウスくんを見上げると、シリウスくんは心配そうに私を見下ろしていた。彼は優しく私を支えて、ゆっくりと座らせた。

「大丈夫か?俺も初めてやったときはすげー苦しかったから…」

シリウスくんは眉を下げて私の顔を見ながら、私の背中をさすった。

「シ、シリウス、くん…え、今、何が起こっ、て…」
「えっと…これは、魔法使いの移動手段で、姿現しっていう魔法なんだ。成人した魔法使いしかできないけど、俺がやったのは付き添い姿現しで、エリも連れてくることができた」

私はシリウスくんの言葉が全く理解できなかった。姿現し。魔法使い。やっぱりシリウスくんは魔法使いなの?え、でも、魔法なんてありえないよ。だって、じゃあどうしてシリウスくんは使えて私は使えないの?どうして今まで私は魔法の存在を知らなかったの?頭がぐちゃぐちゃして、わけのわからない考えが涙となって目からぼたぼたと溢れた。顔を隠して唸る私を、シリウスくんは何も言わず抱きしめてくれた。あぁ、暖かい。肩に回された大きな手のひら、伝わる鼓動。待ち望んでいたものだった。ちょっと、シチュエーションは違うけど。

「シリウスくん、ごめんね」
「……なんで謝るんだよ」
「あのね、信じるから……」
「………」
「私、シリウスくんが、好きだよ。1年くらい前から、ずっと好き。魔法使いでも、いいよ。シリウスくんが、好き。」

かっこいいシリウスくん。私より5歳も若くて、ちょっと子供で、私のお店に通ってくれた男の子。会うたびドキドキして、笑わせてくれて。魔法使いだなんて、本当にこれっぽっちも考えてなかった。

シリウスくんは私をそっと離すと、私の顔をジッと見た。涙でぐしゃぐしゃなのに、ちょっと恥ずかしい。でも、シリウスくんの綺麗な灰色の目を、見つめずにはいられなかった。シリウスくんの顔が、近づいてくる。私はそっと目を閉じて、唇が重なった。


「……エリ、愛してる」

「…私も、愛してる!」







こどもみたいな無邪気さで、とろけるようなキスをして









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