短編 | ナノ





「レグルス・ブラック」
「……できればレギュラスと読んでほしいですね、ここはイギリスなので」
「一応確認するけど、あなたのネクタイは緑と銀色よね」
「ええ、そうですが」
「獅子座なのにね」
「………嬉しそうに雑学を披露しないでください」
「別に嬉しそうにはしてないけど」
「僕の家は代々星の名前をつけるというだけで、先祖にもレギュラスという名前は何人かあります。特に由来というものはないんですよ」
「レグルスって、一等星の中で一番暗い星なんだって」
「……人の話聞いてますか?」
「ラテン語で、小さな王って意味らしいよ。一番暗い、小さな王。なんか、悲しくて、儚いよね。」
「…………」
「レギュラスって、儚いの?」
「何が言いたいのか分からないですね」

レギュラスは私を置いてどこかへ行ってしまった。どうしても、レギュラスとシリウスを並べてしまう私には、レギュラスがとても悲しい存在に思えた。

私の家はレギュラスの家に似ている。代々純血で、スリザリン。シリウスはグリフィンドール。だからね、私はスリザリンだし兄弟もみんなスリザリンだけど、あなたの気持ちが少し、分かるんだよ。レギュラス、シリウス。
お兄ちゃんもおねえちゃんも頭が良くて綺麗で人望があって。ねぇレギュラス、私はあなたを哀れまないよ。どちらかといえば、同類だと感じてる。だからね、邪険にしないでほしいんだ。






「レギュラス、レギュラス」
「なんですか、アデル先輩」
「私、あなたが好きよ」
「僕もアデル先輩が、好きですよ」
「本当に?」
「ええ、もちろん」

そう言って微笑むあなたの目には私のアンバーの瞳が映っていたけど、なんの感情も感じられなくて。置いてかないで。そう思う私は、自分が思っている以上に疲れていて、誰かに慰めてもらいたいんだろう。
だからね、レギュラスに依存するんだよ。ねぇレギュラス、あなたも私に依存してしまえばいいんだよ、そしたら、おいてけぼりになんてならないから。きっと、1人にならないから。

「どうして泣くんですか」
「……………」
「先輩」
「レギュラス、置いてかないで」
「………どこにですか」

みっともなく涙を流す私を、レギュラスは抱きしめるわけでもなく、慰めるわけでもなく、ただ見つめた。一方的に依存。なんて、滑稽なんだろうか。






「よお狼女、今日はあのバカともスニベリーとも一緒じゃないのか?」
「………こんにちは、黒いイヌさん。そうね、狼女は人間と一緒にいられないから。あなたのお友達の狼男さんとなら一緒にいれるかも。紹介してくれる?」
「……っ、テメェ…!」

呪いを壁に跳ね返しながら、綺麗な顔を歪ませるシリウスを見て、泣きたくなった。何を怒ってるんだろうな。黒い犬のアニメーガスだってバレたことかな。それとも、リーマス・ルーピンを狼男と呼んだことかな。…どちらもなんだろうな。ずーっと昔から彼は私を狼女と読んで、今でも呼んでいるくせに。そうやって自分の親友に向ける愛情を、どうして自分の家族…弟に、向けてあげられなかったんだろう。あなたがいれば、いなければ、レギュラスはあんなに、苦しまないのに。
呪いをわざと天井に向ければ、シャンデリアが大きな音を立てて落ちてきた。その隙に私はシリウスに背を向けた。後ろから怒った声が聞こえるけど、私の目から流れる水も、私の足も、止めることはできなかったみたい。



「先輩、また泣いてるんですか」

頭上から聞こえる言葉に顔をあげると、さっきまで一緒にいた彼に似た、人。

「ごめんね」
「どうして謝るんですか」

隣に座ったレギュラスの肩に頭を預ける と、レギュラスは一瞬私の頭を押し返したけど、何を思ったのか私の肩を抱き寄せた。

「……気の迷い?」
「そうです」

キッパリ答えるあなたがとても、あなたらしい。







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