「狼女」
初めてそう言われたのは、いや、初めてそう言われた記憶があるのは、6歳のときだった。 親につれていかれた社交パーティで会った、自分と同じくらいの背の男の子。間違いなく初対面だと確認してから、私は思いっきり顔をしかめてお父さんの元へ戻った。
言い返す言葉が見つからなくて、悔しかったから。
私の瞳はアンバー。私のお兄ちゃんもおねえちゃんもお父さんもブルーの瞳だったのに、何故か私の瞳だけアンバーだった。昔昔、私を生んだせいで死んでしまったお母さんは私の瞳と同じ色だったらしい。そのせいか、私は家にもあんまり居場所がなくて、社交パーティも兄弟よりはつれていってもらえなかった。
私に狼女と言った男の子は、ブラックの髪にグレーの瞳の、人形みたいに綺麗な子だった。私にも自覚はあったんだ。アンバーの瞳は別名、狼の目。それは単に、狼の瞳にアンバーが多いというだけのことで、私もマニアックな本を読むまで知らなかったし、言われたことなんてなかった。
ただ、その男の子が博識で、無礼な子だということだけは分かった。
「あなたの瞳はアンバーなんですね」
狼の目だ。
私の瞳を見ながらそう呟いた男の子は、ずっと昔に見た男の子と、そっくりだった。だから、びっくりして、本当にびっくりして。その子が私から目をそらしてからも、私はその子から目をそらせなかった。 ブラックの髪にグレーの瞳。でも、人形みたいに綺麗ってわけではなくて。確かに綺麗ではあったけど、記憶の中の彼とは少しだけ違う気がした。
アンバーの瞳は珍しかった。特にこの国ではあまり見かけない。お母さんも、この国の出身ではなかったらしい。それでも似たような色はあったし、狼の目、と言ってきたのは、この2人だけだった。 だからこの2人に何かつながりはあるとは思っていたけど。
「…アンバー、狼女じゃん。久しぶりだな」
まさか、兄弟だとは。それも、ブラック家の。
「……やっぱり、兄弟なのね」 「は?」
赤と金のネクタイを締めた背の高い彼を見上げて私は目を細めた。人形みたいな綺麗さより、今は男の子らしいかっこよさのほうが優ってたけど、やっぱり綺麗で。 レギュラスよりも、綺麗で。
「シリウス・ブラック……黒い、犬ね。」
私がそうつぶやくと、彼は驚いたように目を丸くしてから、フン、と私を鼻で笑って去っていった。狼の目、に対抗したわけじゃない。とりあえず彼は、私と同じ犬科ってことかな。
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