一目見た瞬間、運命を感じた。私はこの人と出会うために生まれてきたに違いない。それくらい、一瞬のうちにえも言えぬ何かが体を、頭を、駆け巡ったのだ。
シリウス・ブラック。婚期を逃しそうな年齢の私の前に現れたのは、世間では重罪人として有名な男であった。優秀な闇祓いでホグワーツでは同寮の後輩にあたるトンクスの親戚であり、世にも有名な生き残った男の子ハリー・ポッターの名付け親。 私は魔法省でほとんど仕事一筋に生きてきたが、そのおかげで彼に会えたのだろう。中々の地位もあり、キングズリーやトンクスに信頼されていたらしい私は不死鳥の騎士団という例のあの人に歯向かう集団に勧誘された。正直スパイのような役回り、自分に出来るか不安であったが、そう、最初は興味本意だった。 例のあの人が復活した。シリウス・ブラックは実は無罪であった。そんな、信じたくもない面白い話を聞いて確かめないわけもいくまい。
そして今に至る。
「シリウスシリウス!私これ作ってみたの、食べて!もっと食べなきゃハンサムが泣くよ!!」 「…………はぁ、アデル…」 「なぁにシリウス!」 「いや、みんな引いてるから」 「……え、あ、平気だよシリウス!ぼ、僕は全然気にしないというか…」 「うんうん、どうぞイチャついててください」
ウィーズリー家の子供たちに冷やかされるのも、隣にシリウスがいればまったく気にならない。トンクスは興味深そうにニヤニヤしているし、大人びたハーマイオニーは見なかったふりをしようとする。ハリーはこっちをちらちら見ながらも気をつかってくれてる。
「ハリー、私をお母さん代わりだと思ってくれていいわよ!もちろんリリーさんには全然敵わないけど、シリウスが父親代わりなら私が!」
拳を握りしめてハリーに目を向ければ、テーブルの所々で何人かが吹き出した。シリウスはあきれ果てたように私を見るし、モリーは哀れみをこめた目で見つめてくる。 確かに私とシリウスは10も離れているけどリーマスとトンクスほどじゃないし。いろいろと障害があるのも分かってる。シリウスは世間ではまだ重罪人だし、ブラック家だ。私は純血だけど、血を裏切る者というやつである。 とりあえず例のあの人を倒さないことにはシリウスを射止めるには決定打に欠ける。 打倒例のあの人!!
…………なーんて結構真剣に思ってたんだけどなぁ。
「アデル!!」
どんって突き飛ばされて、こう、ね、シリウスがね、消えちゃった。 もう何が起こったか分からなくて、分かりたくなかった。シリウスの名付け子であるハリーに守るように抱き締められる始末。
ごめんなさい、ごめんなさい、ありがとう、ごめんなさい、シリウス、ハリー。シリウスは必要な人だったのに。私なんかの代わりに死ぬべきじゃなかった。私が代わりに死ぬべきだったのに。シリウスの最期の言葉が私だなんて、ハリーに、なんて言ったらいいか。 ハリーに初めて出来た、家族だったのに!!
「アデル、もういいよ、もういいんだ。……シリウスは、死んだ」
ああ、私より一回りも年下のハリーの方が大人だなんて、私はなんて情けないんだろう。
ごめんなさいシリウス、ハリー、騎士団のみんな。お腹のこの子を生んだらすぐに駆け付けるから。ハリーは、絶対に私が守る。シリウスの代わりになんてなれないけど、せめてシリウスがやれなかったことをやろう。
ねえシリウス、愛してるよ。今までも、これからも、ずっと。…少なくとも、あなたの子供が生きている限り。
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