「お兄さん、俺のこと嫌いですか？」

恐る恐る、といった感じで聞いてきやがるので思わず「は？」と返した。益々不安そうな顔になった。
ちなみに最近はもとがいなくても普通に遊びに来るようになりやがった。蛇足。

「なんで」

さっきまで普通に話してたとは思う。それなのにどうして急にそんな話になったのか。俺は普通に聞いたつもりだったが、抑揚がないので怒っているように受け取られたらしい。北原のおどおどが強くなった。挙動不審だな。

「お兄さんのお友達の……吉川さん？に最近会って、ちょっと話したんですけど……」
「吉川さん？」

吉川さんはそんな話してなかったのに、いつの間に。まあ、絶対報告しないといけないわけでもないし。
お互い妙な情報を交換したりしていないかが気掛かりだったりはするが。

「吉川さんはお兄さんのお友達なので聞いてみたんです。俺はお兄さんに嫌われてるんでしょうか、って」
「え。……な、なんて……？」
「冷たいというか、苦手意識持たれてる気がする……みたいな」
「はああああ！」

終わった、吉川さんの中の井浦像終わった。学校では調子いいくせに家では冷徹な男だと思われたああああ！
ただでさえ吉川さんの井浦像あんまりいい感じじゃなさそうなのに。でも吉川さんならまだ良かった方か。堀さんだったら面白おかしく吹き込まれてた恐れがある。まあセーフ。限りなくアウトだけど。
って言うか苦手に決まってんだろ。そんなガチっぽい好意剥き出しで寄って来たら警戒もするわ。俺は彼女が欲しいんであって、彼氏は募集してない。

「っお、おにいさん……？」
「や、なんでもない。こっちの話。で？」

吉川さんに相談して、それから？

「そしたら吉川さんが嫌われてはないでしょ、って。嫌いならまた話したいなって俺が思うような会話しないでしょ、って言われました」
「へえ……」

まともな答えだった。充分それでベストアンサーだろ。何が不満なんだお前は。

「それでその時は納得したんですけど、やっぱり本人に聞いてみないとって思って」
「……ああ、そう」

じゃあ最初から俺に聞けば良かっただろ。

「それで、嫌いだって言われたらどうするわけ？それでも来んの？」

知らない内なら、いくらでも図々しくあれる。でも知ってしまってから図々しくするのは難しいと思う。それならいっそ知らない方がいいんじゃないか。
意地悪とお節介を込めてみたが、それでも北原は譲らなかった。

「嫌われてるかどうかはっきりしないのにびくびくしてるのも失礼だと思うので、はっきりさせておきたいです。また来るかどうかは聞いてから考えます……」

嫌われていないという自信はないらしい。それでも聞くってすごい勇気だな。そういうことならはぐらかすのも悪いか。

「嫌いでは、ない」
「お兄さん……っ！」

露骨に表情が明るくなった。おお、嬉しそうだな。

「だいたいな、嫌いだったらお前の入室と同時に外出するわ。嫌いな奴招き入れられる程人間出来てない」

察せよそのくらい、と言うのは無茶なんだろうか。
俺の返答で機嫌を良くした北原は更に一歩踏み込んで来る。

「じゃあ俺のこと好きですか？」
「いや、苦手」

即答。
へこむくらいはするかと思ったが、北原は相変わらずポジティブだった。おい、さっきまでのネガティブはどこにやった。

「じゃあ好きになってもらえるように頑張ります」
「いや、頑張らなくていい……」

何の決意だ。
そしてそれがどっちの意味の「好き」なのかは結局聞けなかった。


だから君はただ全力で僕のもとへ来ればいい