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うそでしょう。口の中で思わずそう呟いた。
私の手元には、外側にきれいなラッピングが施されているのに反して中が空っぽの紙袋。そして目の前には、珍しくもすこし困ったように眉を下げた赤司くん。

簡単に事情を説明すれば、こうだ。
今日は我が彼氏の赤司くんの誕生日です、張り切ってプレゼントを準備しました、張り切りすぎて、昨夜何度も袋から取り出して確認した結果、ちゃんと入れ直し損ねて家に忘れてきました。おしまい。ほんとにもうこのまま私の人生終わってしまえ。

「ごめ、赤司くんごめんね…!」

「そんなに深く頭下げなくても」

気にしなくていい、と赤司くんは言ってくれるけど、これがどうして気にせずにいられようか。いや、私が今ここで自分の失態にへこんだところでなにも解決なんてしなくて、赤司くんを困らせるだけだってことくらいはわかっているんだけれど。それでも自己嫌悪というのはじわじわやってくるわけで。思えば、私はこんなことばかりやらかしている気がする。いつもいつも。

今日こそは、と思っていたのに。赤司くんが生まれた今日という日こそは、めいっぱい祝福して、たくさんのお祝いとお礼を伝えたかったのに。こんなミスをしたんじゃそれも台無しだ。泣きたい、ととっさに思ってから、挽回しようともせずにそんなことを考えるのはとんだ甘えだと気付いて、いっそう自分がいやになる。私、最悪。と、後ろ向きを極めた気持ちが赤司くんを直視することすら許さなくて、失敗したのに気遣ってもらってしまっていることに耐えきれなくて、目を伏せた。すると。

「…人を祝うとき、必ずしもプレゼントが必要というわけじゃないだろう。わたすことができるのは形のあるものだけじゃない」

特別優しいわけじゃない、けれどあたかかさが確かに宿る声でそう言って赤司くんがのぞき込んでくる。それにつられて視線を上げれば赤い双眸とかち合った。世界にふたつとないだろう鮮やかな色をした、照明を反射してちかちかと星がまたたくように輝く虹彩が私に言葉を促す。私が伝えたくてたまらなくて、でも出鼻をくじいて喉元に留まった言葉を。

まだ。失敗しても、情けなく俯いてしまっても、まだ、あなたを祝うことは許されますか。

「赤司くん、あのね、」

「うん」

「お、…お誕生日、おめでとう」

つかえながらもそう口にすると、赤司くんは笑った。嬉しそうに、満足そうに。それを見るとなんだかひどく安心して、さっきまで躊躇っていた言葉たちが堰を切ったように溢れてくる。

「それから、生まれてきてくれてありがとう。私と出会ってくれて、一緒にいてくれて、ありがとう」

私は、贔屓目に見てもあまりできた子ではないと思う。ちょうど今日みたいな失敗をしょっちゅうするし、それを必要以上にずるずる引きずって周りを困らせたりもするし。
けれど、赤司くんはそれを決して否定することはなくて。甘やかしもしないけど、「できない」私を認めたうえで、私が失敗した分を自分できちんと取り戻せるように手助けしてくれる。それにどれだけ救われていることか。そんな風に赤司くんといると、例えるなら一等星の眩い光に照らされて輝くことのできる星屑みたいに、完璧にはなれなくても私も捨てたものじゃないかなと思える。もちろんいつもそううまくいくわけじゃなくて、すれ違うことだってあるけど。それでも赤司くんといられて私はしあわせで、しあわせで。本当にどれだけ感謝の言葉を尽くしても足りない。

そんなことを拙いながらもどうにか伝えれば、やっぱり赤司くんは笑う。普段の余裕が滲んだものとは少し違い、頬を淡く染めて目元を和ませるようにして。

「それじゃあ僕は、きみの『ありがとう』へありがとう、だな」

祝ってくれて、僕の生へ感謝を捧げてくれて、ありがとう、なんて。お礼にお礼を言われてしまった。

「ちょっとややこしいよ、赤司くん」

「そうかな」

そうだよ、と笑いまじりに返す内心でもう一度繰り返す。お誕生日おめでとう、生まれてきてくれてありがとう。どうか来年もその先も、きらきら輝くあなたのそばでそれに恥じない私がいて、こうして心から祝うことができますように。


六等星の称号

title:誰花