小説 | ナノ





 彼の口から紡がれる愛の言葉というのはまるで麻薬のようだ。それだけで私をくらくらと酔わせてしまうし、私は満足してしまう。彼からの言葉だけで満足してしまい、それ以上など求めることはないのだ。彼はその先を求めているのかもしれない、けれど私がその先に思いを馳せるなどということは絶対にないのだ。麻薬は一定量で十分だ、増やしてしまえばきっとどんどんよくばりになっていく、それが怖いのだ。


「赤司君、私はあなたを愛していますよ」
「もちろん、僕も君を愛しているよ」


 周りから見れば高校生同士の滑稽な遊びのように見えるかもしれない。けれど愛しているという言葉に嘘はないのだ。お互い好き、という言葉では足りない。愛しているという言葉でも足りなくなった時、きっとその先に私は焦がれるのだ。けれどそんなことを考えてしまったら、きっと彼には似合わない人になっている。違う色をした双眸が私を捉えて離さないのは、きっと私は現時点で彼のお眼鏡に適っているだけなのだ。
 彼からそのようなことに焦がれるのであれば、きっとそれは正しいのだろう。けれど私から求めてしまえばきっと卑しい存在になってしまうのだ。

 周りを見渡せば私たちのずっと先に焦がれている人はたくさんいる。きっとそれはそれで、彼らにとっては正しいことであり、当たり前のことなのだろう。けれど私たちではだめなのだ。周りと私たちは同じではないから、そう言うしかない。


「赤司君、月が綺麗ですね」
「……ああ、そうだな」


 ゆっくりと微笑んだ彼の双眸に吸い込まれていくような気がした。きっと彼はこの意味が分かるのだろう。わかってくれていなくてもそれでいい。ただ、私は彼とともにいられればそれだけで幸せなのだ。



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