酒場の壁を背に、気の乗らない宴会から抜け出したシンは一人煙草を吹かしていた。


その視線は立ち上る紫煙を眺めているのか、その向こう側に広がる星空を見ているのかは定かではない。


故郷であるはずのこの国が、今日は何故か居心地が悪い。



長く嫌悪感を抱いていたせいなのか。
ただ、敵である軍の本拠地であるからなのか…。






紫煙を一息吸い込み、溜息と共に深く吐き出す。
短くなった煙草を揉み消し、酒場へ戻ろうと踵を返した。



すると何やら路地裏のほうが騒がしいことに気づく。


引き寄せられるように自然と足が動いて、






気がついたときはもう路地裏へ続く道の中腹だった。






(…らしくないか。)



己の無意識の行動に自嘲染みた笑みをこぼした。

壁に身を隠し、路地裏の様子を伺うと、一人の女を数人の男が取り囲んでいた。


卑怯極まりないその光景に、そっと銃を握るが…







『騒ぎを起こさない』






船長の言葉が脳裏を過ぎった。

船長命令は絶対だ。
目立つ行動は出来ない。

様子を見に来たはいいが…



どうしたものかと思考を巡らせていると、











風が舞って、隣を何かが通り抜けた。











その“何か”は自分の獲物を構えると男達に容赦なく突っ込んで行った。



ひとつに束ねられた長い髪を翻し、素早く無駄の無い動きはまるで舞っているかのように鮮やかだ。



それはまさに、一瞬の出来事だった。





先ほどまで意気揚々としていた男達は地に伏していて、その中に佇むひとつの影。




両手に握られた拳銃からは白煙が上がっていた。






戦いの場で初めてこんな感情を抱いた。




いささか場違いではあるかもしれないが―…





ただ、















綺麗だと思った。









心惹かれるには『一瞬』で十分だった。













その“何か”は人であり、






女だった。





それは恋に落ちるなんて可愛らしいものではなく。

落雷に打たれたような衝撃だった。





女はこちらに振り返り、近づいてくる。

シンが銃を構えるよりも先に、カチリと無機質な音がして銃口がこちらに向けられた。







「貴方も、あの男達の仲間かしら?」





女は形の良い唇に笑みを浮かべ、言葉を紡いだ。

しかし見つめられる瞳には敵意が宿っている。





























「…あれ?」





数秒の沈黙を破ったのは女のほうだった。




構えていた拳銃を下ろし、シンのすぐ目の前に女は顔を近づける。

じーっと、何かを観察するようにシンの顔を覗き込んでいた女の雰囲気が一変した。




「貴方、もしかしてシンじゃない?」


そこにあったのは先ほどまでの冷たい眼差しではなく、無邪気な笑顔をだった。



《再会》





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