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「おはようございます!」
「おはよう、なまえちゃん。」
最近、このシリウス海賊団に新しい仲間ができた。
それはまだ、歳若い女の子。
よく動くし、よく笑う。
人懐っこい性格ですぐに船に馴染んでいった。
今ではみんなの妹的存在だ。
ハヤテやトワ辺りは、何か違う感情を抱いているようだけれど…
でもその笑顔の裏は…
いつだったか、慣れない船上での生活や残してきた家族を想い、涙するなまえを見かけた事がある。
私に気付くと、いつもの笑顔に戻るのだが…
赤くなった目が痛々しかった。
そんななまえの気持ちを汲んで私も見ぬ振りをする。
でも、そのなまえの姿が忘れられずにいた。
そんななまえは、最近よく医務室に来るようになった。
元々医学に興味があったのか、私の読む医学書を覗き見たり、薬の調合を眺めていたり…
勉強熱心な理由を、一緒に止血帯を作りながら尋ねた事がある。
するとなまえは、
「みんなの役に立ちたいから。」
そう答えた。
謙遜なのか、本音なのか。
いや、恐らく後者だろう。
本人は気付いてはいないだろう。
なまえが来てから船内が明るくなった事に。
それは微々たる変化なのかもしれない。
でも長くこの船に乗っている私は確実な変化を感じていた。
なまえの周りには皆が集まる。
船員達同士の会話も増えたし、何より皆よく笑うようになった。
なまえに笑顔に釣られてなのか。
なまえといると、不思議と穏やかな気持ちになれるから。
ヤマトには“笑う門には福来たる”という言葉もある。
それに笑う事は体にもいいと言われているし、医者としても喜ばしい事だ。
そんな事を考えながら、医学書を開いて唸っているなまえを微笑ましげに見ていると、顔を上げたなまえと目が合った。
お互いに微笑み合う。
それはとても、穏やかな時間。
再び視線を医学書に落としたなまえの傍らには、
両掌に乗るほどの大きさの植木鉢。
少しでも勉強が楽しくなれば…
少しでも気がまぎれれば…
そう思い、幾日か前に薬草の種をあげたのだ。
なまえは目を輝かせて喜んだ。
それから、その種に水をあげるのがなまえの日課だった。
植木鉢を眺め、芽が出るのをまだかまだかと待ちわびているなまえの姿はとても楽しそうだった。
あげて正解だった。
そう思い、自分も再び医学書の文字の羅列を目でなぞった。
「おはようございます!」
元気な挨拶と共に、今日もなまえは医務室にやって来た。
もちろん植木鉢も一緒だ。
「おはよう、なまえちゃん。芽は出たかい?」
そう尋ねると、なまえは肩を落として「まだです…」と答えた。
小さなため息が聞こえ、項垂れるなまえの形のいい頭を撫でると嬉しそうに笑った。
「簡単なものではないからね。」
根気が必要だよ。そう言うと、「がんばります!」と拳を握ってみせるなまえ。
「今日も元気だね。」
「元気が取り柄です!」
そう言うなまえの笑顔に、いつかの記憶が重なる。
赤い目を隠して笑ったなまえの姿。
ツキンと胸が痛んで、
「…そっか。」
そんな言葉しか出てこなかった。
「っと、今更なんですが…ソウシさん、」
そんな私を気に止める事なく、
「ん?」
持っていた植木鉢を机に置くと、
「今日もお邪魔していいですか?」
そう尋ねてくるなまえを断るはずもなくて…
「勿論だよ。」
そう笑顔で返せば、なまえは俄かに頬を紅くしてちょこんといつもの場所に腰掛けた。
また、二人の穏やかな時間が過ぎていく。